雨にも負けず!ゲームの街になった川越~ぶらり川越 GAME DIGGレポート【前編】

こんにちは、モブです。SKOOTAGAMESのネゴラブチームで、日々キーボードを叩いたり、たまにコーヒーを淹れたりしている者です。 先日、埼玉県の川越市で第一回目が開催されたオフラインゲームイベント、ぶらり川越 GAME DIGGに参加してきました。 ちなみにこのイベント、ちょっとユニークなんです。特定の会場をドーンと構えるのではなく「オープンタウン型」として、歴史ある川越の街全体を舞台にする、という試みが目立っていました。事前にこの話を聞いた時は、街の中でゲームと出会うってどんな体験になるだろう?と個人的な疑問と興味を抱きつつありました。 ただ、当日はあいにくのお天気…。イベント開催中、一日を通してしっかり雨が降り続くという、オープンタウン型イベントにとっては、少し厳しいコンディションでありました。それでも傘を片手に、雨にも負けず元気に展示されていたブースを巡ってみると、やはり面白いゲームとの出会いはちゃんとありました。 むしろ、こういう天気だったからこそ、かえって強く印象に残ったというか、記憶に残る出会いになれた気がします。そこで今回のレポートでは、この雨の川越 GAME DIGGで、私モブが特に「おっ」と感じ入った4つのインディーゲームを中心に、当日の様子と合わせてお届けします。 湯斬忍者:一杯のうどんに込めた地域愛と、湯切りされた固定観念 雨の川越 GAME DIGGで最初に足を止めたのが、この『湯斬忍者』のブースでした。まずはキャッチコピーをご紹介します。「香川のうどんがお客様に届くまでの、バックヤードの死闘をノンフィクションでゲーム化しました(嘘)」…この一文だけで、なんだか面白いことが起こりそうな予感が湧いてきますよね。 ゲームの内容でいうと、プレイヤーがうどんを作る忍者となり、迫りくる敵(うどん作りの秘密を狙う刺客らしいです)を倒しつつ、カウンターの向こうで待つお客さんに出来立てのうどんを提供する、というシンプルなアクション。操作も直感的で、矢印キーで移動しながらうどんの「湯切り」を行うのが基本。移動しながらシャッシャッと湯切りして敵を倒し、お客さんの前ではZキーでうどんを提供していくわけです。 ただ、このゲームで心に刻むべきは、あくまで「お客さんへのサービス」が最終目的という点。攻撃手段の「湯切り」にも肝心の「うどん」が必要不可欠で、手持ちがなければ戦闘も提供もままなりません。なので、単に敵をバシバシ倒す爽快感だけでなく、うどんというリソースを管理しつつ「お客さんへのサービス」をどう全うするかへのバランス感覚が問われるのです。このユニークな切り口には「なるほど」と感心させられました。 実際にプレイしてみると、シンプルな操作性と軽快なアクションで、誰でもすぐに楽しめる、いわゆるミニゲームらしい魅力がしっかり詰まっています。キャラクターのコミカルな動きや、うどんというテーマ自体が持つネタっぽい面白さも素晴らしい。まさに「小さくて、しっかり面白い」という評価に相応しいミニゲームでした。 実はこのゲーム、Unityroomで2018年から公開されているため、「なぜ今更?」という声もあるかもしれません。ですが、この「誰でも気軽にすぐ遊べる」というとっつきやすさこそが、今回のイベントの文脈で非常に重要。というのも、このゲームがここに出展した背景にその理由があります。 ブースで制作者の方に直接お話を伺いしたところ、この『湯斬忍者』、なんと香川県のゲームクリエイターたちが集うコミュニティから生まれた作品だそうです。単なるゲームジャムの成果物というだけでなく、そこには「香川」という地域性や、そこに根差すクリエイターたちの想いが込められている。うどんがテーマだった理由もそこで納得できました。 実際、このゲームは香川県で開催されている地域密着型ゲームイベント「SANUKI X GAME」にも出展経験があり、今回はその主催側でもある「讃岐GameN」さんが出展されていたということ。本作を入口にして少しでも香川県のことや、地域のクリエイターたちの活動に興味を持ってもらえたら、とのお話もお聞きできました。「これを機に香川に遊びに来てくれたら最高ですね!」…そんな熱い想いを語られた制作者さんに、思わず頷いてしまいました。 この制作者さんの想いを聞けただけでも、「川越まで来て本当によかった」と、心から思えたほどです。 振り返ってみると、最近いくつかのゲームイベントに参加する中で、自分のゲームを見る視点が、どうしてもゲーマー寄りに偏ってしまっていたように感じます。でも、本作とその背景にあるストーリーに触れて、自分の中にあった「インディーゲームとはこうあるべき」みたいな小難しい理屈や固定観念が、出来立てのうどんのようにスッキリと「湯切り」された気分になりました。「こういうアプローチこそが、インディーらしい一面なのかもしれない」と。そんな、忘れかけていた大切な視点を思い出させてくれた作品でした。 そして何より、ゲームの話から香川への愛まで、本当に楽しそうに、そして熱心に語ってくださった制作者さんの姿が、とても印象的でした。『湯斬忍者』の根底にある「お客さんに最高のうどん(=ゲーム体験)を届けたい」というサービス精神の源流を、垣間見たような気もします。「自分もブースに立つときは、これくらいの熱量と誠意を持たないとだな」なんて、帰り道にちょっとした宿題をもらったような、そんな気持ちで次のブースへと足を運びました。 MeloMisterio -play your melody-:静かに響く旋律と誰でもできる即興演奏 『湯斬忍者』のブースで香川への想いを馳せた後、次に向かったのは『MeloMisterio -play your melody-』。こちらはジャンプとダッシュというシンプルな操作だけで、なんと即興演奏(!)ができてしまうという、新感覚の3Dプラットフォームゲームでした。この紹介文だけでも、ゲームのユニークさが十分に伝わるでしょう。 ただ、操作には面白い工夫が凝らされています。ジャンプとダッシュが各々「二つのボタン」に割り当てられており、ボタンを押すたびに特定の音(綺麗なシロフォンのような)が鳴る仕組み。ボタン毎に音の高低差が設定されていて、プレイヤーは移動アクションを行うたびに、自分だけのメロディーを即興で奏でることができるのです。 もちろん、この音の高低差は単なる雰囲気作りだけではありません。ゲームのコアである3Dプラットフォームパズルとも密接に繋がっているのです。目の前の障害物を越えるために、音の高さに応じて位置が変わるブロックを操作することも可能。一度システムを理解すれば直感的に応用できるので、これを活かしたパズル性はなかなか歯ごたえ十分。ゲームコンセプトの斬新さだけでなく、プラットフォームパズルとしての面白さも両立させています、と。まずはそう評価できるゲームでした。 実際にプレイしてみると、正直なところ、難易度は思ったよりもわりと高めだったかなと。この音階ギミックに慣れる必要もありますし、単純に足場から落ちないように気を遣う3Dプラットフォーマー特有のシビアさもあって、最初は少し戸惑ったのも事実です。それでも、自分がなにかのアクションを取るたびに音楽が生まれ、それがゲーム攻略に直結しているというインタラクティブ性が「もう一回だけ!」という挑戦意欲を自然と掻き立てていました。画面もキラキラしたデジタル空間といった趣でしたが、目が痛くなるくらいの過度な派手さではなく、心地よいバランスが保たれていたので好印象。 しかし、本作を語る上で外せないのが、「コエトコ(旧川越織物市場)」という歴史ある建物の中に展示されていたこと。 この趣深い場所でプレイできたのは川越 GAME DIGGならではの贅沢であり、特別な体験でもありました。雨音と建物の静けさの中、プレイヤーのアクションに応じて響き渡る透明な綺麗な音。しかもプレイヤー毎にメロディーが違うので、横で聞いていると何らかの「エモさ」を覚えるほどでした。会場で常に新しい生演奏が流れるのは実にクレバーで、飽きずにずっと聞いていられる点は大きいメリットでしたね。 実に、「主催者は意図的にここに配置したのでは?」と感じるほどかと。 単純な感想ですが、ゲーム自体の面白さもさることながら、私のように楽器経験が皆無(カスタネットができるくらい)の人間が「即興演奏」できるなんて、想像もできない貴重な体験でした。音楽大学出身という制作者さんが、「好きな即興演奏の楽しさを、誰もがゲームで体験できるようにしたかった」と語る純粋な想いにはリスペクトしか感じられませんでした。普段このジャンルはあまり遊ばない印象ですが、リリースされたら自分だけのメロディーを奏でてみたい…そう感じさせた一作でした。 まだ:川越で出会ったゲームと、これからのこと というわけで、雨の中の川越 GAME DIGGレポート、前編として『湯斬忍者』と『MeloMisterio -play your melody-』の二作品をご紹介しました。 正直なところ、一日中降り続いた雨は、「オープンタウン型」というユニークな試みを存分に味わう上では、やはり少し厳しい条件だったかもしれません。しかし、だからこそ、屋根の下や特定の会場で出会った一つ一つのゲーム体験が当時の風景と一緒に、より深く、そして鮮明に記憶に残れたと思います。 『湯斬忍者』では、開発者の方との温かい対話を通じて、うどん一杯に込められた地域コミュニティの熱意や、ゲームが持つ繋がりの可能性に触れることができました。そして『MeloMisterio』では、文化財「コエトコ」という特別な空間と雨音が奇跡的にシンクロし、他では決して味わえないであろう、深く心に響く即興演奏の「エモさ」を体験することができたのです。

まだまだ広がるインディーゲームの世界 〜ゲームパビリオンjp 2025レポート〜【下編】

こんにちは、モブです。次回に続いてゲームパビリオンjp 2025レポートの第三回、最終回をお届けします。これまで「独特な雰囲気を醸し出すミニマルなインディーゲーム」、「独特なコンセプトで武装した、一方で闇を感じるインディーゲーム」と題して様々な作品を紹介してきましたが、今回は「デザインと操作感に心血を注いだインディーゲーム」に焦点を当てます。 「インディーゲーム=粗削りで小規模」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、今回紹介する三つのタイトルは、そんな固定観念を見事に打ち破る作品ばかりです。少人数の開発チーム、時には一人の開発者が、大手スタジオにも引けを取らない洗練されたデザインと気持ちの良い操作感を実現している姿に、正直なところ私自身が一番驚かされました。 大阪という新たな土地で出会ったこれらのゲームは、読者の方々にもインディーシーンの底力と可能性を改めて感じさせてくれるでしょう。それでは早速、三つの傑作をご紹介します。 Tournamentris:トーナメント表と落ちものの革新的融合 続いて紹介するのは『Tournamentris』です。トーナメント表と落ちものというユニークな要素を組み合わせた、新感覚のパズルゲームでした。言葉だけで説明するのは難しいのですが、一度プレイすればどれほど斬新で独特なシステムなのかが一目で分かります。 私の説明力が許す限りで紹介すると、基本的にテトリスのような構造をしていて、下にはサイコロのように点の数が異なるブロックがランダムに並んでいます。プレイヤーはその上にテトリスのように何かを落とすことができるのですが、落とせるオブジェクトには主に二種類がありました。 一つ目は「ピース」。一見すると柵のように見えるこれは、床にあるブロックとブロックを繋ぐ役割を果たします。この時注意すべきなのは、同じ点の数を持つブロック同士しか繋げられないということです。つまり、点が一つあるブロックは同じく点が一つあるブロックにしか繋げられず、点が三つのブロックは同様に点が三つのブロックとしか繋げられないのです。 このように繋がれたブロック間のピースの上に、もう一つのオブジェクト「クラウン(王冠)」を乗せることができるようになります。クラウンが乗ったピースとそれによって繋がれたブロックは、より大きな数の一つのブロックに変わるという仕組みです。 参考までに言葉を添えますと、点が一つの二つのブロックを合わせると点が二つのブロック一つになり、点が三つの二つのブロックを合わせると点が一つのブロック一つに戻るという、より複雑な構造も存在します。その他にも、あるピースの上に同じサイズのピースを乗せると消えてしまうなど、思いのほか気を配るべき要素が多いゲームでした。 最初から難しそうだったので意図的にイージーモードを選びましたが、それでもかなり苦戦しました。一見すると意外とシンプルのように思えますが、数字の大きさや変化するサイズ、ピースの大きさなど、考慮すべきことが山ほどあったからです。それにもかかわらず、もう少しシステムに慣れれば夢中になって没頭できそうな、そんな中毒性を感じました。もしイベントでプレイできなかった方も、現在Unityroomで遊べるので、一度参考にしてみるといいでしょう。 今まで述べたようにゲーム性が目立つ作品ではありましたが、個人的に最も印象的だったのは全体的なデザインです。UIデザインからチュートリアルの案内まで、細部にわたる洗練さが際立つデザインでした。特に、最初にゲームシステムを理解する上で最大のハードルとなりがちなパズルゲームだけに、チュートリアルの案内がウェブゲームとは思えないほど親切でスマートな方式だったのが印象的でした。 ユーザーに一定のルールの理解を求めるパズルゲームだからこそ、分かりやすく伝えることは選択肢というよりも必須だったのではないでしょうか。そういう意味で、できるだけ多くのユーザーがゲームを快適に楽しめるようにという制作者の心遣いと配慮が、このデザインで表れたのではないかと感じました。 このゲームを制作したStudio ZeFは、ZeFというお名前のインディーゲームクリエイターさんを中心とした3人組のチームだそうです。様々なゲームイベントを回りながら、短いスパンでパズルゲームを作るインディー開発チームをいくつも見てきましたが、これほど練られたシステムと洗練されたUIをウェブゲームとして作りこめた例は珍しいと思います。今回のイベントを通じて「やはりインディーゲームの世界は広いな」と実感させてくれた、そんな一本だと自信を持って言えます。 Thunder of the DEMONKING:洗練された悪魔の雷撃 今回プレイしたゲームの中で、最も完成度が高いと感じたのが『Thunder of the DEMONKING』です。「これ、もう売り出してもいいのでは?」と思わせるほどの出来栄えでした。ジャンルはアクションタワーディフェンスで、シンプルにマウス一つで操作できる手軽さが特徴的です。 世界観の説明をすると、ようやく復活した魔王である主人公が、自分を倒そうと押し寄せてくる王国軍を相手に雷を落として撃退するという、なかなかシンプルな内容です。ただ、主人公はちょうど復活したばかりがゆえに力が弱いため、途中途中でパワーアップしながらだんだん強い敵を倒していくことになります。操作もシンプル、説明もシンプル。まさに「シンプル・イズ・ザ・ベスト」を体現するカジュアルゲームでした。 実際にプレイしてみると、説明と実体験に大きなギャップを感じない作りに。ある意味では説明だけで完結すると言いますか、追加の言葉を付け加えなくても理解できるという点では、誰でも楽しめるゲームだと言えるでしょう。 基本的に大勢で押し寄せるミント色の兵士たち、少し速いスピードで突進してくる赤色のエリート兵、そして巨大な体と体力を誇るオレンジ色の兵士など、様々な敵が現れます。プレイヤーは単純なクリックで小さな雷を素早く連続で落とすこともできますが、チャージして大きな雷を落とすのも可能なため、周囲の状況に合わせて柔軟に対応する必要がありました。 時間がたつにつれて敵の数と体力が上がることになります。エリート兵の場合は小さな雷にダメージを受けないこともあるため、その場その場の状況判断が重要になります。何より、途中のレベルアップの報酬として現れる能力値向上オプションも、攻撃力、チャージ速度、必殺技使用回数などを提供するため、選択肢はさらに広がることに。シンプルな要素で極めたゲームシステムを提供すること。そういう意味で、このゲームはすでに「完成」しているように感じられます。 しかしそれ以上、このゲームに衝撃を受けたのはそのディテールの部分です。押し寄せる兵士の動きからサウンド、エフェクトに至るまで、このゲームは溢れることも足りないこともない絶妙なバランスを示していました。 まず兵士から話をすると、小さくシンプルなデザインの兵士ですが、それぞれの特性によってはっきりと区別される形とデザインまで。群れで押し寄せてくることで画面と区別がつかないとか、識別が難しいということはありませんでした。何より、ゲーム中に現れる箱を壊すとバナナが出てくるのですが、このバナナを見て喜んで両手でむしゃむしゃ食べるというギミックもとにかく大好き。その他にも、標識を壊すと障害物に変わり、兵士たちの前進を一定時間阻止できるのですが、それを越えるために足で踏みつける小さなアニメーションも丁寧だと感じました。 また、サウンドも秀逸です。当時のブースではネックスピーカー(首にかける輪の形のスピーカー)を使用していましたが、四方から聞こえる兵士たちの可愛らしい雄叫びと、タワーディフェンスというジャンルがマッチして良いシナジーを生み出していました。ゲーム内のBGMと効果音のバランスも絶妙でした。(絶妙いい過ぎてますかね?)どれ一つ欠点を指摘できない、ウェルメイドなカジュアルゲームでした。 個人的にこのゲームの最も優れた点は、うじゃうじゃと押し寄せる敵をテンポ良く、かつ気持ち良く表現している点にあると思います。このバランスというのは本当に難しく、ともすれば鬱陶しかったり不快に感じたりする部分ではないかと。そういう意味で、これほどの快適さと気持ち良さを実現したことには学ぶべき点が多いと感じました。そして、そのような話を制作者に直接伝えることができたので、何より嬉しく思います。以上、リリースが最も期待される作品、『Thunder of the DEMONKING』でした。 レッツカチコミ!!おのかちゃん:未来の「カップヘッド」となる可能性を秘めた一人開発の傑作 このゲームについては特に期待していただいて構いません。なんと、将来の日本版「カップヘッド」になり得るゲームだと思うからです。発表から5年もの時間をかけ、独特のグラフィックで多くの注目を集めた伝説的ゲーム「カップヘッド」をインディーゲームイベントで言及するとは。今回書いた記事の中で最もアイロニな点かもしれません。ただ、それほどまでに、このゲームは次元の異なる繊細なアニメーションと快適な操作感で武装した2Dアクションゲームだということだけは伝えておきたいです。 このゲームをプレイしたのはわずか5分にも満たなかったでしょう。イベント会場に設置された木製アーケードゲームボックスに興味を持って訪れました。約1分ほどの簡単な操作を説明するチュートリアルを経ると、イベント用に作成したと思われるステージを一つ体験できました。 操作もシンプルです。敵の攻撃が当たらないように動きつつ、敵を足で踏んだり、体でタックルをかけて攻撃する。子供たちも多くプレイしているのを通りがかりによく見かけるほど、誰でも楽しめる大衆的なプレイ体験でした。一度プレイした後の私の感想も「どんなインディーゲーム制作会社がこのレベルのゲームを出せるのだろう?」というものでした。しかし聞いてください。なんと、このゲームを作ったのがたった一人のインディーゲームクリエイターらしいです。 2Dアクションゲームは見方によれば、ゲームイベントをはじめ、Steamなどのオンラインストアでも最も多く見られる大衆的なゲームジャンルです。そういう意味では最も多くのライバル作品と向き合うことになるジャンルでもあり、ゆえにユーザーはゲームに対してより特別なものを求めがちなのです。 その点でこのゲームは、特に目立つ点がなく、何の違和感も感じさせない「よく作られたゲーム」でした。ただし、たった一人で作ったという点だけが、そのすべてのプレイ体験に違和感を覚えさせるほど、レベルが高かった点を除けば。 まず操作感について話してみると、非常に軽快かつ気持ちの良い操作感を目標にしたというのは十分に感じられました。敵を踏んだりタックルをした時に飛んでいく様子がスマブラ特有の演出を思い起こさせるほどでした。多くのメジャーゲームをプレイしてきた一般ユーザーには大して響かないかもしれませんが、ゲームを制作した経験があったり、インディーゲームに結構触れてきたユーザーの立場からすれば、これがどれほど凄いことなのかが分かるでしょう。あるいは単に私が大げさに言っているだけなのかもしれませんが。 しかし否定できないのは、このゲーム内のアニメーションが確かに一人制作のレベルをはるかに超えていたということ。先ほど「カップヘッド」を連想したのも、このようなアニメーションのレベルに基づいていました。 偶然にもゲーム制作会社が並ぶエリアで出会ったゲームだったので、当然何かの制作会社の作品だと思っていた私でしたが、意外なことに制作者は一人のクリエイター。信じられなかったので何度も尋ねましたが、なんと3年前にこのゲームを制作し始め、今後5年後に正式にリリースする予定だというお話しを聞けました。もちろん、今年Steamでデモを公開するという事実も伝えておきたます。 昨年から仕事を含め、個人的にも数多くのインディーゲームに触れてきた私からすると、インディーゲームで「自然さ」を感じることは何よりも重要な部分だということ。どこか感じる違和感や拙い部分が魅力として作用することもインディーゲームの良いところですが、それを超えてどれだけの完璧さを追求できるかもまた、インディーゲームこそがより評価される部分だと思うのです。 その意味で『レッツカチコミ!!おのかちゃん』が一人制作でこのレベルのクオリティを生み出したというのは、インディーゲームの今後示す多くの可能性に関しても示唆するところが大きいと感じますが、そう考えるのは私だけでしょうか?いずれにせよ、5年後が楽しみになるインディーゲームタイトルであることは間違いないです。 インディーゲームの可能性は無限大 今回紹介した『Tournamentris』『Thunder of the DEMONKING』『レッツカチコミ!!おのかちゃん』、この三つのゲームに共通するのは、その驚くべき完成度と洗練されたデザイン性です。いずれも少人数、あるいは一人の開発者が手掛けたとは思えないほどの品質に、改めてインディーゲーム開発の可能性を感じずにはいられませんでした。

独特なコンセプトで武装したインディーゲーム 〜ゲームパビリオンjp 2025レポート〜【中編】

こんにちは、モブです。前回の記事に続き、ゲームパビリオンjp 2025レポートの第二回をお届けします。前回は「独特な雰囲気を醸し出すミニマルなインディーゲーム」として、小規模ながらも深い没入感を提供する作品を紹介しましたが、今回は少し趣向を変えて「独特なコンセプトで武装した、一方で闇を感じるインディーゲーム」に焦点を当てます。 インディーゲームの魅力の一つは、誰も思いつかなかったような斬新な発想や、それゆえの自由さにあります。今回紹介する二つのゲームは、まさにその魅力を最大限に生かし、一見すると明るく可愛らしい外観の下に、意外な「闇」や複雑さを秘めた作品です。 大阪のイベント会場で出会ったこれらのゲームは、プレイした瞬間に「こんな発想あったのか!」と驚かされると同時に、その裏に隠された深い思考に感心させられました。それでは、早速見ていきましょう。 超絶融合バビおじ症候群:ギャップがもたらすインパクト 続いて紹介するのは『超絶融合バビおじ症候群』です。カジュアルなリズムゲームというジャンルながら、バーチャル配信者をモチーフにした独特なコンセプトが目を引きました。なんと、中身はおじさんなのに見た目は美少女バーチャル配信者という主人公「しらぽん」が、人気配信者を目指す旅を描いているのです。可愛らしいUIとキャラクターデザインから感じられる闇のギャップが印象的で、思わずプレイしてしまったタイトルでした。 プレイ方法はシンプルです。三つのラインに沿って飛んでくるコメントのノーツを、スワイプ、タップ、ホールドを使って処理していくのです。一文で説明できるほど単純な仕組みなので、それほど難しくないだろうと安易に考えていた私の甘い考えを見事に打ち砕くように、このゲームの難易度は予想以上に高かいものでした。 イージー、ノーマル、ハードに分かれた難易度の中で無難にノーマルを選んだものの、なかなかついていくのが難しい。おそらく、会場という環境で曲をしっかり聴けず、動体視力だけでノーツを追いかけなければならなかったことが原因かと。また、慣れないスワイプ・タップ・ホールドという操作方法が相まって、そのような困難に直面したと思いつつですが…結果的に成績はCランク。わずか28人のチャンネル登録者しか獲得できないまま終了してしまいました。残念な結果でしたが、次のプレイヤーが待っていたため、そこで席を離れざる得ませんでしたね。 印象的な点と言えば、やはりゲームのコンセプトでしょう。バーチャルで美少女アバターで配信するおじさんとは…。アイデアとして思いつくことはあろうけれども、なかなか行動に移すのは容易ではない企画だと思います。その意味では、弊社レーベルの『ももっとクラッシュ』の「太ももで魂を挟んで浄化する」というコンセプトを連想させる部分もありました。 参考になったのは、やはりゲームの背景部分です。タイトル画面から暗く映し出される主人公の部屋の中が、あまりにもリアルで目が離せませんでした。黄ばんだ壁紙と薄暗い雰囲気の中のテレビやカレンダー、机の上に置かれたのは新聞とタバコ、そしてビール。そのような風景と対照的な「しらぽん」ちゃんがとにかく可愛いですと。コンセプトを単なるコンセプトで終わらせず、きちんとその闇を感じられるよう考え抜かれていることが伝わってきました。些細だけれども決して小さくない部分ですよね。 時間の関係で多くの会話はできませんでしたが、今回のイベントで初めて出会ったゲームだけに、今後の展開が楽しみです。次は東京のイベントで再会できることを期待しながら、次のゲームに移りましょう。 来りてモグモグ:記憶を手放す先に見える世界 次に紹介するのは『来りてモグモグ』です。イベントの出展情報で語られている説明によると超短編ノベルゲームとのこと。実際にノベルゲームコレクションで公開されたこの作品は、15分という短いプレイ時間を持っていましたが、その内容は決して短いものではありませんでした。このゲームの特徴を一言で表すなら「メタ性」ともいえるでしょう。 ストーリーは、ある日突然プレイヤーの前に現れた正体不明の存在が、ゲーム内に存在する五つの記憶のうち四つを渡さなければならないという話から始まります。主人公が渡せる五つの記憶とは、「名前」「言語」「現実」「音響」「色彩」とのこと。ここで選んだ選択肢は文字通りゲーム内から消えてしまい、プレイヤーはゲーム内のヒントを通じて最後の4つ目の記憶を渡すまでのエンディングを探っていくことになります。 記憶を渡すという独特の世界観と設定、そしてそれがゲーム内要素として反映されるという斬新な構造に興味を覚え、イベント開始前から注目していたゲームの一つでした。プレイ方式は文字通り選択型ノベルゲーム。難しく考える必要はなく、与えられた選択肢を選ぶだけのシンプルな方式ですが、この独特なシステムがプレイヤーに思考と好奇心の余地を与えていたのです。 例えば、私は最初に「言語」を選びました。なぜなら最初、「言語を特におすすめする」というセリフがあったからです。そうして言語を選ぶと、画面上のテキストが漢字と特殊記号が混ざった文字の集合体(言語モジュールが故障したときによく見るやつ)に変わってしまい、目の前の人物が何を言おうとしているのかも分からないまま手探りでゲームを進めることになります。しかも残りの4つの選択肢でさえも文字が崩れていたので、次に選んだものが何なのかさえ分からないまま選んでしまうという状況に陥ったほどです。 プレイ中に制作者さんから教えていただいたのは、記憶を失ったからといって必ずしも対処できないわけではないということ。例えば(少しネタバレになるので苦手な方は読み飛ばしてください)、言語の場合、ノベルゲームでよく見られるログ記録を通じて、相手が何を言ったのかを確認できるのです。このように、一見単純な選択肢を選ぶだけのゲームで、プレイヤーは自分の行動をより熟考し、その思考を通じて選択肢の結果をゲームのシステムで克服できるという独特な構造になっていました。 最も印象的だったのは、開発者との会話で聞いたこのゲームがティラノビルダーで作られたという点です。もちろん、ティラノスクリプトを直接編集する必要はあるとのことです。先ほど述べたノベルゲームコレクションで公開されたという言葉で既に察している方もいるかもしれませんが、個人的にティラノビルダーをあまり経験したことがない立場だったので、こんなゲームを作れるというのは正直ショックでした。 私も一時期ノベルゲームを制作する中でUnityの宴を使って色んなのチャレンジをしてきたのですが、当時見送ったティラノビルダーでもこんな素晴らしいゲームを作れるとは。「今更」という思いもありますが、今後ティラノビルダーで作られたノベルゲームコレクションのタイトルもしっかりチェックしなければ、そう思わせてくれた一本でした。 「表と裏」が織りなす魅力 今回紹介した『超絶融合バビおじ症候群』と『来りてモグモグ』、この二つのゲームを通じて感じたのは、インディーゲームが実現できる「表と裏」の魅力です。 表面的には可愛らしいキャラクターや親しみやすいUIを纏いながら、その実態は予想もしない内容や深みを持つ―これはある意味、より自由な発想と思考の行動ができる、インディーゲームなれではの試みとも言えるでしょう。 『超絶融合バビおじ症候群』では、美少女バーチャル配信者の裏にいるおじさんという設定自体がその二面性を表していますし、『来りてモグモグ』においては、選択によって失われる「記憶」という要素が、プレイヤー自身の体験そのものを変質させていきます。 大阪で出会ったこれらの作品は、「ゲームとは何か」「体験とは何か」という根本的な問いかけをも含んでおり、プレイ後もしばらく頭から離れない余韻を残してくれました。 次回の第三回では「デザインと操作感に心血を注いだインディーゲーム」と題して、インディーながらもメジャータイトル顔負けの完成度を誇る三つの作品をご紹介します。お楽しみに。