こんにちは、モブです。前回の記事に続き、ゲームパビリオンjp 2025レポートの第二回をお届けします。前回は「独特な雰囲気を醸し出すミニマルなインディーゲーム」として、小規模ながらも深い没入感を提供する作品を紹介しましたが、今回は少し趣向を変えて「独特なコンセプトで武装した、一方で闇を感じるインディーゲーム」に焦点を当てます。 インディーゲームの魅力の一つは、誰も思いつかなかったような斬新な発想や、それゆえの自由さにあります。今回紹介する二つのゲームは、まさにその魅力を最大限に生かし、一見すると明るく可愛らしい外観の下に、意外な「闇」や複雑さを秘めた作品です。 大阪のイベント会場で出会ったこれらのゲームは、プレイした瞬間に「こんな発想あったのか!」と驚かされると同時に、その裏に隠された深い思考に感心させられました。それでは、早速見ていきましょう。 超絶融合バビおじ症候群:ギャップがもたらすインパクト 続いて紹介するのは『超絶融合バビおじ症候群』です。カジュアルなリズムゲームというジャンルながら、バーチャル配信者をモチーフにした独特なコンセプトが目を引きました。なんと、中身はおじさんなのに見た目は美少女バーチャル配信者という主人公「しらぽん」が、人気配信者を目指す旅を描いているのです。可愛らしいUIとキャラクターデザインから感じられる闇のギャップが印象的で、思わずプレイしてしまったタイトルでした。 プレイ方法はシンプルです。三つのラインに沿って飛んでくるコメントのノーツを、スワイプ、タップ、ホールドを使って処理していくのです。一文で説明できるほど単純な仕組みなので、それほど難しくないだろうと安易に考えていた私の甘い考えを見事に打ち砕くように、このゲームの難易度は予想以上に高かいものでした。 イージー、ノーマル、ハードに分かれた難易度の中で無難にノーマルを選んだものの、なかなかついていくのが難しい。おそらく、会場という環境で曲をしっかり聴けず、動体視力だけでノーツを追いかけなければならなかったことが原因かと。また、慣れないスワイプ・タップ・ホールドという操作方法が相まって、そのような困難に直面したと思いつつですが…結果的に成績はCランク。わずか28人のチャンネル登録者しか獲得できないまま終了してしまいました。残念な結果でしたが、次のプレイヤーが待っていたため、そこで席を離れざる得ませんでしたね。 印象的な点と言えば、やはりゲームのコンセプトでしょう。バーチャルで美少女アバターで配信するおじさんとは…。アイデアとして思いつくことはあろうけれども、なかなか行動に移すのは容易ではない企画だと思います。その意味では、弊社レーベルの『ももっとクラッシュ』の「太ももで魂を挟んで浄化する」というコンセプトを連想させる部分もありました。 参考になったのは、やはりゲームの背景部分です。タイトル画面から暗く映し出される主人公の部屋の中が、あまりにもリアルで目が離せませんでした。黄ばんだ壁紙と薄暗い雰囲気の中のテレビやカレンダー、机の上に置かれたのは新聞とタバコ、そしてビール。そのような風景と対照的な「しらぽん」ちゃんがとにかく可愛いですと。コンセプトを単なるコンセプトで終わらせず、きちんとその闇を感じられるよう考え抜かれていることが伝わってきました。些細だけれども決して小さくない部分ですよね。 時間の関係で多くの会話はできませんでしたが、今回のイベントで初めて出会ったゲームだけに、今後の展開が楽しみです。次は東京のイベントで再会できることを期待しながら、次のゲームに移りましょう。 来りてモグモグ:記憶を手放す先に見える世界 次に紹介するのは『来りてモグモグ』です。イベントの出展情報で語られている説明によると超短編ノベルゲームとのこと。実際にノベルゲームコレクションで公開されたこの作品は、15分という短いプレイ時間を持っていましたが、その内容は決して短いものではありませんでした。このゲームの特徴を一言で表すなら「メタ性」ともいえるでしょう。 ストーリーは、ある日突然プレイヤーの前に現れた正体不明の存在が、ゲーム内に存在する五つの記憶のうち四つを渡さなければならないという話から始まります。主人公が渡せる五つの記憶とは、「名前」「言語」「現実」「音響」「色彩」とのこと。ここで選んだ選択肢は文字通りゲーム内から消えてしまい、プレイヤーはゲーム内のヒントを通じて最後の4つ目の記憶を渡すまでのエンディングを探っていくことになります。 記憶を渡すという独特の世界観と設定、そしてそれがゲーム内要素として反映されるという斬新な構造に興味を覚え、イベント開始前から注目していたゲームの一つでした。プレイ方式は文字通り選択型ノベルゲーム。難しく考える必要はなく、与えられた選択肢を選ぶだけのシンプルな方式ですが、この独特なシステムがプレイヤーに思考と好奇心の余地を与えていたのです。 例えば、私は最初に「言語」を選びました。なぜなら最初、「言語を特におすすめする」というセリフがあったからです。そうして言語を選ぶと、画面上のテキストが漢字と特殊記号が混ざった文字の集合体(言語モジュールが故障したときによく見るやつ)に変わってしまい、目の前の人物が何を言おうとしているのかも分からないまま手探りでゲームを進めることになります。しかも残りの4つの選択肢でさえも文字が崩れていたので、次に選んだものが何なのかさえ分からないまま選んでしまうという状況に陥ったほどです。 プレイ中に制作者さんから教えていただいたのは、記憶を失ったからといって必ずしも対処できないわけではないということ。例えば(少しネタバレになるので苦手な方は読み飛ばしてください)、言語の場合、ノベルゲームでよく見られるログ記録を通じて、相手が何を言ったのかを確認できるのです。このように、一見単純な選択肢を選ぶだけのゲームで、プレイヤーは自分の行動をより熟考し、その思考を通じて選択肢の結果をゲームのシステムで克服できるという独特な構造になっていました。 最も印象的だったのは、開発者との会話で聞いたこのゲームがティラノビルダーで作られたという点です。もちろん、ティラノスクリプトを直接編集する必要はあるとのことです。先ほど述べたノベルゲームコレクションで公開されたという言葉で既に察している方もいるかもしれませんが、個人的にティラノビルダーをあまり経験したことがない立場だったので、こんなゲームを作れるというのは正直ショックでした。 私も一時期ノベルゲームを制作する中でUnityの宴を使って色んなのチャレンジをしてきたのですが、当時見送ったティラノビルダーでもこんな素晴らしいゲームを作れるとは。「今更」という思いもありますが、今後ティラノビルダーで作られたノベルゲームコレクションのタイトルもしっかりチェックしなければ、そう思わせてくれた一本でした。 「表と裏」が織りなす魅力 今回紹介した『超絶融合バビおじ症候群』と『来りてモグモグ』、この二つのゲームを通じて感じたのは、インディーゲームが実現できる「表と裏」の魅力です。 表面的には可愛らしいキャラクターや親しみやすいUIを纏いながら、その実態は予想もしない内容や深みを持つ―これはある意味、より自由な発想と思考の行動ができる、インディーゲームなれではの試みとも言えるでしょう。 『超絶融合バビおじ症候群』では、美少女バーチャル配信者の裏にいるおじさんという設定自体がその二面性を表していますし、『来りてモグモグ』においては、選択によって失われる「記憶」という要素が、プレイヤー自身の体験そのものを変質させていきます。 大阪で出会ったこれらの作品は、「ゲームとは何か」「体験とは何か」という根本的な問いかけをも含んでおり、プレイ後もしばらく頭から離れない余韻を残してくれました。 次回の第三回では「デザインと操作感に心血を注いだインディーゲーム」と題して、インディーながらもメジャータイトル顔負けの完成度を誇る三つの作品をご紹介します。お楽しみに。
独特な雰囲気を醸し出すミニマルなインディーゲーム 〜ゲームパビリオンjp 2025レポート〜【上編】
こんにちは、モブです。また記事を書くことになりました。普段はSKOOTAGAMESのネゴラブチームで日々、コツコツとUnityと格闘している者ですが、前回のTIGSレポートがあまりにも好評だったため、今回は大阪で開催された「ゲームパビリオンjp 2025」に足を運んできました。 定時退社を心がけている私がわざわざ出張してまでイベントに行くのは珍しいことですが…正直なところ、無料経費で新幹線に乗れるところが大きかったかもしれませんね。しかし、そんな軽い気持ちで訪れたイベントは、予想以上に多くの発見と刺激に満ちていました。 今回のレポートシリーズでは「まだまだ広がるインディーゲームの世界」をテーマに、三回に分けてお届けします。初めての大阪でのインディーゲームイベント参加は、これまで経験した東京のゲームイベントとはまったく違う空気感を味わうことができました。出展されているゲームも、既視感のある懐かしいテイストのものから、全く新しい感覚を呼び起こす作品まで、実に多様性に富んでいたのです。 第一回目の今回は、「独特な雰囲気を醸し出すミニマルなインディーゲーム」と題して、小さな規模ながらも深い没入感を提供してくれた二つのタイトルをご紹介します。 とかげメトロGB:懐かしさと新しさが融合する手のひら冒険譚 最初に紹介するのは『とかげメトロGB』です。メトロイドヴァニア形式の2D探索アクションゲームで、特筆すべきは携帯ハードで動作するという点。現場ではこの小さなデバイスを手に取り、懐かしさと新鮮さが入り混じる不思議な感覚とともにプレイしました。 緑色のトカゲを操って「コオロギの巣」を探索するというシンプルな設定ながら、わずか10分ほどのデモプレイの間にも、予想以上の奥行きを感じさせる内容でした。プレイ方法や操作は直感的で、少し触れるだけですぐに手に馴染む設計になっています。 探索型アドベンチャーゲームの醍醐味は、明確な道筋が示されない自由さにあります。このゲームも例外ではなく、洞窟内を自分の意志で歩き回りながら、思いがけない発見や制作者の仕掛けに出会う喜びに満ちていました。小さな画面の中に広がる世界は、その制約を逆手に取った工夫と創意に溢れていたのです。 ゲーム内の細部には遊び心が散りばめられていました。全体としては巣を探検し、敵を倒して新能力を解放していくオーソドックスな流れですが、随所に小さな驚き要素が用意されています。 特に印象的だったのは、ゲーム内に登場する通信機のような装置。セーブポイントとしての機能だけでなく、主人公のスキンを変更できる機能も備えていたので、初期状態の緑色から、赤色の「アタックとかげ」や金属質感の「きんぞくとかげ」に姿を変えることができました。 たかが爪ほどのドット絵が変わっただけなのに、それがもたらす満足感はなかなか。この手の小さいゲームのカスタマイズ要素といえば、せいぜいプレイヤーの名前を入力する程度しか思い浮かばなかった自分にとって、この小さな工夫は割と衝撃でした。 マップには隠しエリアも点在していて、制限時間内に見つけられたのはたった2か所。「もっとあるはず」という探索欲を刺激してくれる設計も秀逸でした。次にプレイする機会があれば、もっと丹念に探してみたいと思います。 制作者のaze3さんは、本業ではゲーム業界のデザイナーとして活躍されているそうで、このゲームは趣味で制作しているとのこと。プロの技術と個人の情熱が融合した結果なのか、小さなスケールながらも隅々まで行き届いた繊細さを感じる作品でした。 指先に残る携帯ハードのボタンの感触と、液晶画面のうっすらとしたディスプレイまで。それらの懐かしさと、現代のゲームデザインセンスが不思議と調和した体験は、しばらく忘れられそうにありません。 帰路:静寂と思考が織りなす旅 次に紹介するの『帰路』です。独特の雰囲気が特徴的な2Dドットイラストのパズルゲームで、四角形のタイルで構成されたマップ上に、特定の形をしたパネルを置くことで道をつないでいくという、シンプルでありながら決して容易ではない構造のパズルゲームでした。 一つ特筆すべきは、単に道を見つけることがこのゲームの目的ではないということです。より正確には「正しい道」を見つけなければならないのです。主人公の少女は常に目的地に最も近いルートでタイル上を歩いていくため、間違った目的地を避けたり、仲間のカラスを連れて行ったりするなど、一見単純な構造でも、それ以上の目的意識を持ってプレイしなければならないゲームでした。 今回のイベントでプレイしたゲームの中で、最も頭を使わされたタイトルだったように思います。単に空いている場所にパネルを置けば道ができるわけではなく、パネルを置いた場所が空のタイルなら新たにタイルが生成され、元々タイルがあった場所なら消えるという仕組みのため、単純にタイルを埋めていく発想ではカバーできない難しさがありました。 ようやく慣れてきたかと思った矢先、ゴールに直進せずに仲間のカラスを連れていかなければならないという要素が加わり、さらに難しい状況に直面することになりました。なんとかタイルを置いたりリセットしたりしながら最後までプレイできましたが、後ろに誰か待っているかもしれないという焦りで手に汗を握りながらプレイしていました。 いつも思うことですが、このようなイベントでプレイするパズルゲームは、後ろに誰か立っているかもしれないプレッシャーと向き合いながらしなければならないんですよね。ただ、それゆえに成功した時に感じる達成感がとんでもなく大きいので嫌ながらもプレイしてしまうと。一度プレイしようと決心するのは難しいかもしれませんが、実際にプレイしてみると楽しい記憶として残るわけです。 ゲーム性ももちろんですが、先ほども言った通り雰囲気が素晴らしいゲームでした。特徴的なドットイラストも目を引く魅力があっただけでなく、控えめで静かな雰囲気のBGMと微かに聞こえてくる効果音が、パズルに頭を悩ませている最中でも思わず感嘆せずにはいられなかった要素でしたね。 カラスのギミックが加わった後の話になりますが、カラスを連れて目的地に向かう際、頭の上にカラスが止まるという細かいけれど可愛らしいポイントもありました。ストーリーも、もしかしたらのネタバレを避けるため詳しくは話せませんが、「この先に何が待っているのだろう」という想像を掻き立てるには十分だったように感じます。 久しぶりにパズルとストーリー、そして世界観という三拍子が揃い、期待を抱かせるタイトルと出会えたという点で、今回のイベントは十分な意義があったと感じられる、そんな貴重な出会いでした。 このようなパズルゲームの制作者に会うと必ず聞きたくなる質問があります。「こういったパズルはいつ、どうやったら思いつくのですか」という定番のクエスチョンです。ただ今回は珍しく、他の要素でお話しすることに時間を費やしてしまい、この質問を投げかける余裕がありませんでした。もし他のイベントで出会う機会があれば、ぜひ一度プレイしてみることをお勧めします。難しすぎる場合は、制作者さんが親切にヒントをくださるので、遠慮なく聞いてみてください。 小さくても深い体験を提供する力 今回紹介した『とかげメトロGB』と『帰路』、この二つのゲームに共通するのは、一見するとシンプルでミニマルなデザインでありながら、プレイヤーを独自の世界観へと引き込む力強さです。 携帯ハードという限られたハードウェアで表現された小さなトカゲの冒険も、静謐な雰囲気の中で展開される論理的なパズルの旅も、どちらも「小ささ」を武器に、むしろその制約の中で創意工夫を凝らした作品と言えるでしょう。 しかも驚くべきことに、これらはいずれも少人数、あるいは個人で開発されたものでした。大規模なチームや莫大な予算がなくとも、明確なビジョンと情熱があれば、プレイヤーの心に残る体験を作り出せることを、改めて教えてくれたタイトルだったと思います。 インディーゲームの魅力とは、まさにこういった「小さくても深い」体験にあるのかもしれません。大阪で出会ったこれらのゲームは、インディーシーンの多様性と可能性を再認識させてくれる、貴重な出会いでした。 次回は「独特なコンセプトで武装した、一方で闇を感じるインディーゲーム」と題して、斬新かつ大胆な発想で驚かされる作品たちをレポートします。お楽しみに。
「誰でも遊べる」究極の操作性―東京インディゲームサミット2025レポート
こんにちは、モブです。 SKOOTAGAMESのネゴラブチームでUnity初心者として開発を担当しています。普段は適当にゲーム作って帰るだけの人間ですが、 今回は東京ゲームインディーサミット(TIGS2025)のレポートを担当することになりました。 記事執筆は本来担当ではないはずですが、気がついたらもうイベントレポート担当の特派員になっていたので… まあ、別に悪いわけでもないので、今回も頑張って書かせていただきます。 今回は「誰でも可能な操作性」に焦点を当てて、私の目に留まったインディーゲームたちを紹介していきたいと思います。一見すると単純な操作でも、その背後に隠された深い思考やゲーム性に触れることで、ゲーム開発の奥深さを改めて感じられるかもしれません。シンプルさの中にこそ真の洗練があると言いますが、今回紹介するゲームたちはまさにその好例と言えるでしょう。それでは、早速見ていきます。 鼻と花:スニファーの喜び―どこかなつかしい分かりやすさ まず最初に紹介するのは「鼻と花:スニファーの喜び」です。このゲームに注目したきっかけは、TIGS2025の投票式アワードでかなりの票を集めていたからでした。「みんながこんなに注目するのには何か理由があるはず」と思い、プレイしてみることに。 プレイしてみて特に面白いと感じたのは、なんといっても操作性とステージデザインの二つでした。 ゲームの操作は一見シンプルです。鼻の形をした主人公を動かして広いマップを探索するのですが、ここに面白い制約があります。主人公は動いたりアクションを起こすたびに酸素を失ってしまうのです。これを補充するためには、マップのあちこちに咲いている花に近づいて息を吸い込む必要があります。この花はチェックポイントとしての役割も果たしていて、ゲームプレイに緊張感をもたらしています。 しかし、このゲームの真の魅力は、単に「動く・ジャンプする」という基本操作を超えたところにあります。主人公は手足を伸ばしてゴムのように前に飛び出したり、目の前の箱のような障害物を崩したりすることができました。この独特のビジュアルに合った、トコトコと弾むような操作感覚が本当に楽しいポイント。 何より良かったのは、こうした操作をわかりやすく、直感的に行えるようデザインされていたこと。そしてその操作性に合わせて、ゲームには様々な障害物とギミックが満載でした。簡単に言えば、「動ける制限時間」と「それを邪魔する障害物」という構図の中で、独特の操作感を活かして突破していく感覚が、単にマップを回るだけでも飽きさせない楽しさを提供していたのです。 個人的には、このようなマップデザイから、かつて楽しんだ「ニンテンドー3DS」のゲームプレイを思い起こさせる懐かしさを感じました。ある意味で、この直感的な操作性も、誰でも遊べるシンプルさを持っていた過去のゲームから影響を受けているのかもしれません。 ちなみに一つだけ雑談を挟みますと、このゲームのタイトルも極めて印象的。「鼻と花」とは、完全に狙って付けたのではないかと思うほど絶妙なネーミングです。開発者に聞いてみると、原題の「NASAL NOMAD SNIFFER’S DELIGHT」とは全く関係なく、ローカライズの過程で一種のパンチラインとして浮かんだアイデアだそうです。シンプルながらもこのゲームを一番よく表している、非常に秀逸なチョイスだと感じました。 また、開発者との会話を通じて、このゲームが生まれた経緯もお聞きできました。元々はゲームジャムで結成されたチームが原点らしく、当時のゲームジャム大会で優勝したことがきっかけだったそうです。それを土台に実際の開発に着手し、現在は製品リリースに向けてプロジェクトを進行中とのこと。 インディーゲームには本当に様々なケースがありますが、このような偶然から生まれた一つのきっかけが、実際に私たちが楽しめるゲームとなって届けられるとき。自分はそこに一番大きな魅力を感じますね。 この「鼻と花」は結局今回のTIGSアワードでは優勝を逃したようですが、会場での人気ぶりを見ると、発売された暁には多くのプレイヤーに愛されるゲームになるのではないでしょうか。私としては、発売日が待ち遠しい一本です。 I Write Games Not Tragedies―ノベル+リズム+叫ぶ(?) 次に紹介するのは「I Write Games Not Tragedies」です。最初に目を引いたのは何より独特のアートスタイルでした。Steamページでも紹介されているように、このゲームはイギリスのエモスタイルとゴスサブカルチャーに大きな影響を受けています。普段あまり見かけない荒々しいアートスタイルと、ノートパソコンの横に置かれたマイクが気になって、すぐにプレイしてみることにしました。 最初にこのゲームを紹介されたとき、「ナラティブノベルとリズムゲームを組み合わせたスタイル」という説明を聞きました。ノベルとリズムゲームという組み合わせは少し耳慣れないものでしたが、予想を大きく外れるものではありませんでした。操作性もそうです。 基本的にノベル70%、リズムゲーム30%くらいの構成で成り立っているこのゲームは、典型的なノベルゲーム形式に沿って、クリックによるストーリー進行がプレイの主な部分を占めています。残りを構成するリズムゲームパートも、各パートによって若干のバリエーションはあるものの、基本的には3つのボタンを使ってノートを入力する形式に近かったですね。難易度で言えば決して難しくないレベルで、特別な操作説明がなくても遊べる、シンプルかつ優しいゲームでした。 ストーリーは、音楽好きな思春期の主人公アッシュAshが周囲の人との会話やイベントを通じて成長していくという、やや典型的ですが最近のゲームではむしろ見る機会があまりないという、味の濃いテーマを扱っていました。自分の確固たる価値観や趣味に囚われ、むしろ他者を受け入れるのが難しくなった主人公が、周囲の人物との関わりを通して少しずつ成長していくという、そういう意味での成長ドラマだと受け止めました。 物語はアッシュの視点、つまり若い青少年の視点から進行するため、多少ハイティーンドラマのような印象も受けますが、結果的に大人へと成長していく過程を描いているため、そこから滲み出る重厚な台詞やテーマ性もしっかりとこのゲームでは扱われていました。簡単に言えば、このゲームを制作した人の「ノスタルジア」が何なのかを、私たちはこのゲームを通して間接的に感じることができたという点が、最も興味深いポイントだったかもしれません。 先ほど説明したように、ノベル70%、リズムゲーム30%程度の構成のこのゲームでは、それぞれのパートが異なる役割を担っていました。ノベルは基本的にストーリーの進行を担当します。主人公とその周辺人物の紹介や説明から始まり、出来事の進展や周囲の環境との相互作用、主人公の心理など、多くの要素をノベルパートを通じて語っていく方式でした。 リズムゲームの場合、先行するノベルパートで理解した主人公の心理やイベントの様相を基に、独特のロックスタイルの音楽が流れ、より歌詞や主人公の心理に集中できる瞬間を与えます。最後には「スクリームScreamパート」と呼ばれる、接続したマイクを使って叫び声を上げてスコアを獲得するというユニークなシステムが搭載されていました。まさに、これがロックンロールというものでしょう。 忘れないうちに言いますと、全体的に楽曲が素晴らしかったです。ゲームがリリースされる前に、オーディオトラックも購入したいと思うほどでした。私は特にエモロックのようなジャンルが好きで普段良く聴くようなタイプではありませんが、それにもかかわらず、このゲームの楽曲を聴いた瞬間は、今回ほかのどのゲーム音楽を聴いたときよりも感銘を受けたように思います。 スクリームパートで叫ぶのが少し恥ずかしくて大きな声を出すことはできませんでしたが、何だか私も一緒に叫ぶことでアッシュの仲間になったような感覚を得られたことは良いと思いました。今後リリースされれば、曲は最も期待される部分であることは間違いないでしょう。 開発者さんとの会話では、今後のリリース計画についての話を聞きました。現在のSteamページでは日本語がサポートされていないと書かれているようですが、イベント会場でプレイしたバージョンはプレイするのに全く支障がないほど優れたローカライズレベルを示していました。もちろん、少し翻訳調の雰囲気は残っていましたが、むしろこのようなジャンルやテーマ性のゲームにそれくらいの味がなければ寂しいと感じる立場なので。むしろ、さらにもっといろんな言語をサポートしてほしいという思いを伝えました。開発者側も検討中とのことなので、今後中国語や韓国語を含め、より多くの言語圏でプレイできるようになるのではないかという期待を抱いています。 FREEZIA―シンプルさの中に潜む不穏な余韻 続いて紹介するのは「FREEZIA」です。人類の冷凍睡眠を管理する人工知能「フリージア」となって、睡眠ポッドの温度を安定させるパズルアクションゲームです。 このゲームのパズルメカニズムは非常にシンプルでした。冷凍睡眠装置に入った人々が適切な温度で眠りにつけるよう、温度を適正値に合わせることがすべてです。具体的にいうと、プレイヤーは主人公のフリージアを通して目の前に表示されるバッテリー形状の温度表示画面を見ながら、キーボードの↑↓で温度を上げたり下げたりすることができます。それぞれの温度を適正線に合わせると、温度チェックのための「ALL OK」カウントダウンが始まり、このカウントダウンが終わるまで問題が発生しなければ勝利するという形式です。 最初は単に矢印キーを使ってバッテリーの数を合わせる形式のパズルに過ぎなかったのですが、後半になると自動的に温度が上がってしまうカプセルが追加されるなど、少しずつ条件が厳しくなっていきます。それがこのゲームのパズル的な面白さではないかと。 操作方法自体に特別な点はほとんどありませんでした。上で述べたことがほぼすべてだと言えますが、カプセルの追加に伴って温度を切り替える機能が追加されるなど、今後さらなる要素が加わると思われます。 しかし、近未来的な世界観と冷凍睡眠装置の温度を調節するという独特の設定、そして極めてシンプルな画面構成とデザインが一体となって、到底「普通のパズルゲーム」には見えないのがこのゲームの魅力だと感じました。やや暗く、ディストピア的な世界観の中で単純な操作が交錯し、なんとも言えない違和感がプレイ中ずっと浮かび上がってくるのです。 簡単に言えば、単にブロックの数を調整するだけのゲームプレイに対して、人が凍え死んだり過熱で死んだりする可能性があるというこの不愉快な世界観のシステムが、ゲームをすればするほど余計な想像力を刺激するという点が、私に深い印象を残しました。そのため、このゲームのパズル性はすでに短いプレイを通してある程度把握できたにも関わらず、「ゲームが出たら必ず買おう」と心から決めたのです。 説明したゲーム性と世界観と同様に、このイベントで目を引いたのは、ブースで配布されていたポストカードでした。ゲームデザインが基本的に二色だけで構成されているにも関わらず、配られていたポストカードには何とも言えないリッチさが感じられました。 よく見ると、ポストカードはグリッターのように輝く特殊な材質の紙でできており、濃い青色の画面と調和した光沢が、まるで星が瞬いているような錯覚を起こさせていたのです。ゲーム画面も詳しく見ると、粒子のようなグリッチが画面上に常時表示されていたので、そのようなポイントに着目したのかもしれませんね。とにかく、この特殊な材質の紙を使ったポストカードは、他のブースで配布されているものの中でも端然際立っていました。 シンプルなゲーム性からも多くのことを学べる作品でしたが、このような細かい部分に対するこだわりとディテールからも、本当に勉強になったと思います。今後の開発を含め、ほかのイベントでお会いできることを楽しみにしています。