「誰でも遊べる」究極の操作性―東京インディゲームサミット2025レポート

こんにちは、モブです。 SKOOTAGAMESのネゴラブチームでUnity初心者として開発を担当しています。普段は適当にゲーム作って帰るだけの人間ですが、 今回は東京ゲームインディーサミット(TIGS2025)のレポートを担当することになりました。 記事執筆は本来担当ではないはずですが、気がついたらもうイベントレポート担当の特派員になっていたので… まあ、別に悪いわけでもないので、今回も頑張って書かせていただきます。 今回は「誰でも可能な操作性」に焦点を当てて、私の目に留まったインディーゲームたちを紹介していきたいと思います。一見すると単純な操作でも、その背後に隠された深い思考やゲーム性に触れることで、ゲーム開発の奥深さを改めて感じられるかもしれません。シンプルさの中にこそ真の洗練があると言いますが、今回紹介するゲームたちはまさにその好例と言えるでしょう。それでは、早速見ていきます。 鼻と花:スニファーの喜び―どこかなつかしい分かりやすさ まず最初に紹介するのは「鼻と花:スニファーの喜び」です。このゲームに注目したきっかけは、TIGS2025の投票式アワードでかなりの票を集めていたからでした。「みんながこんなに注目するのには何か理由があるはず」と思い、プレイしてみることに。 プレイしてみて特に面白いと感じたのは、なんといっても操作性とステージデザインの二つでした。 ゲームの操作は一見シンプルです。鼻の形をした主人公を動かして広いマップを探索するのですが、ここに面白い制約があります。主人公は動いたりアクションを起こすたびに酸素を失ってしまうのです。これを補充するためには、マップのあちこちに咲いている花に近づいて息を吸い込む必要があります。この花はチェックポイントとしての役割も果たしていて、ゲームプレイに緊張感をもたらしています。 しかし、このゲームの真の魅力は、単に「動く・ジャンプする」という基本操作を超えたところにあります。主人公は手足を伸ばしてゴムのように前に飛び出したり、目の前の箱のような障害物を崩したりすることができました。この独特のビジュアルに合った、トコトコと弾むような操作感覚が本当に楽しいポイント。 何より良かったのは、こうした操作をわかりやすく、直感的に行えるようデザインされていたこと。そしてその操作性に合わせて、ゲームには様々な障害物とギミックが満載でした。簡単に言えば、「動ける制限時間」と「それを邪魔する障害物」という構図の中で、独特の操作感を活かして突破していく感覚が、単にマップを回るだけでも飽きさせない楽しさを提供していたのです。 個人的には、このようなマップデザイから、かつて楽しんだ「ニンテンドー3DS」のゲームプレイを思い起こさせる懐かしさを感じました。ある意味で、この直感的な操作性も、誰でも遊べるシンプルさを持っていた過去のゲームから影響を受けているのかもしれません。 ちなみに一つだけ雑談を挟みますと、このゲームのタイトルも極めて印象的。「鼻と花」とは、完全に狙って付けたのではないかと思うほど絶妙なネーミングです。開発者に聞いてみると、原題の「NASAL NOMAD SNIFFER’S DELIGHT」とは全く関係なく、ローカライズの過程で一種のパンチラインとして浮かんだアイデアだそうです。シンプルながらもこのゲームを一番よく表している、非常に秀逸なチョイスだと感じました。 また、開発者との会話を通じて、このゲームが生まれた経緯もお聞きできました。元々はゲームジャムで結成されたチームが原点らしく、当時のゲームジャム大会で優勝したことがきっかけだったそうです。それを土台に実際の開発に着手し、現在は製品リリースに向けてプロジェクトを進行中とのこと。 インディーゲームには本当に様々なケースがありますが、このような偶然から生まれた一つのきっかけが、実際に私たちが楽しめるゲームとなって届けられるとき。自分はそこに一番大きな魅力を感じますね。 この「鼻と花」は結局今回のTIGSアワードでは優勝を逃したようですが、会場での人気ぶりを見ると、発売された暁には多くのプレイヤーに愛されるゲームになるのではないでしょうか。私としては、発売日が待ち遠しい一本です。 I Write Games Not Tragedies―ノベル+リズム+叫ぶ(?) 次に紹介するのは「I Write Games Not Tragedies」です。最初に目を引いたのは何より独特のアートスタイルでした。Steamページでも紹介されているように、このゲームはイギリスのエモスタイルとゴスサブカルチャーに大きな影響を受けています。普段あまり見かけない荒々しいアートスタイルと、ノートパソコンの横に置かれたマイクが気になって、すぐにプレイしてみることにしました。 最初にこのゲームを紹介されたとき、「ナラティブノベルとリズムゲームを組み合わせたスタイル」という説明を聞きました。ノベルとリズムゲームという組み合わせは少し耳慣れないものでしたが、予想を大きく外れるものではありませんでした。操作性もそうです。 基本的にノベル70%、リズムゲーム30%くらいの構成で成り立っているこのゲームは、典型的なノベルゲーム形式に沿って、クリックによるストーリー進行がプレイの主な部分を占めています。残りを構成するリズムゲームパートも、各パートによって若干のバリエーションはあるものの、基本的には3つのボタンを使ってノートを入力する形式に近かったですね。難易度で言えば決して難しくないレベルで、特別な操作説明がなくても遊べる、シンプルかつ優しいゲームでした。 ストーリーは、音楽好きな思春期の主人公アッシュAshが周囲の人との会話やイベントを通じて成長していくという、やや典型的ですが最近のゲームではむしろ見る機会があまりないという、味の濃いテーマを扱っていました。自分の確固たる価値観や趣味に囚われ、むしろ他者を受け入れるのが難しくなった主人公が、周囲の人物との関わりを通して少しずつ成長していくという、そういう意味での成長ドラマだと受け止めました。 物語はアッシュの視点、つまり若い青少年の視点から進行するため、多少ハイティーンドラマのような印象も受けますが、結果的に大人へと成長していく過程を描いているため、そこから滲み出る重厚な台詞やテーマ性もしっかりとこのゲームでは扱われていました。簡単に言えば、このゲームを制作した人の「ノスタルジア」が何なのかを、私たちはこのゲームを通して間接的に感じることができたという点が、最も興味深いポイントだったかもしれません。 先ほど説明したように、ノベル70%、リズムゲーム30%程度の構成のこのゲームでは、それぞれのパートが異なる役割を担っていました。ノベルは基本的にストーリーの進行を担当します。主人公とその周辺人物の紹介や説明から始まり、出来事の進展や周囲の環境との相互作用、主人公の心理など、多くの要素をノベルパートを通じて語っていく方式でした。 リズムゲームの場合、先行するノベルパートで理解した主人公の心理やイベントの様相を基に、独特のロックスタイルの音楽が流れ、より歌詞や主人公の心理に集中できる瞬間を与えます。最後には「スクリームScreamパート」と呼ばれる、接続したマイクを使って叫び声を上げてスコアを獲得するというユニークなシステムが搭載されていました。まさに、これがロックンロールというものでしょう。 忘れないうちに言いますと、全体的に楽曲が素晴らしかったです。ゲームがリリースされる前に、オーディオトラックも購入したいと思うほどでした。私は特にエモロックのようなジャンルが好きで普段良く聴くようなタイプではありませんが、それにもかかわらず、このゲームの楽曲を聴いた瞬間は、今回ほかのどのゲーム音楽を聴いたときよりも感銘を受けたように思います。 スクリームパートで叫ぶのが少し恥ずかしくて大きな声を出すことはできませんでしたが、何だか私も一緒に叫ぶことでアッシュの仲間になったような感覚を得られたことは良いと思いました。今後リリースされれば、曲は最も期待される部分であることは間違いないでしょう。 開発者さんとの会話では、今後のリリース計画についての話を聞きました。現在のSteamページでは日本語がサポートされていないと書かれているようですが、イベント会場でプレイしたバージョンはプレイするのに全く支障がないほど優れたローカライズレベルを示していました。もちろん、少し翻訳調の雰囲気は残っていましたが、むしろこのようなジャンルやテーマ性のゲームにそれくらいの味がなければ寂しいと感じる立場なので。むしろ、さらにもっといろんな言語をサポートしてほしいという思いを伝えました。開発者側も検討中とのことなので、今後中国語や韓国語を含め、より多くの言語圏でプレイできるようになるのではないかという期待を抱いています。 FREEZIA―シンプルさの中に潜む不穏な余韻 続いて紹介するのは「FREEZIA」です。人類の冷凍睡眠を管理する人工知能「フリージア」となって、睡眠ポッドの温度を安定させるパズルアクションゲームです。 このゲームのパズルメカニズムは非常にシンプルでした。冷凍睡眠装置に入った人々が適切な温度で眠りにつけるよう、温度を適正値に合わせることがすべてです。具体的にいうと、プレイヤーは主人公のフリージアを通して目の前に表示されるバッテリー形状の温度表示画面を見ながら、キーボードの↑↓で温度を上げたり下げたりすることができます。それぞれの温度を適正線に合わせると、温度チェックのための「ALL OK」カウントダウンが始まり、このカウントダウンが終わるまで問題が発生しなければ勝利するという形式です。 最初は単に矢印キーを使ってバッテリーの数を合わせる形式のパズルに過ぎなかったのですが、後半になると自動的に温度が上がってしまうカプセルが追加されるなど、少しずつ条件が厳しくなっていきます。それがこのゲームのパズル的な面白さではないかと。 操作方法自体に特別な点はほとんどありませんでした。上で述べたことがほぼすべてだと言えますが、カプセルの追加に伴って温度を切り替える機能が追加されるなど、今後さらなる要素が加わると思われます。 しかし、近未来的な世界観と冷凍睡眠装置の温度を調節するという独特の設定、そして極めてシンプルな画面構成とデザインが一体となって、到底「普通のパズルゲーム」には見えないのがこのゲームの魅力だと感じました。やや暗く、ディストピア的な世界観の中で単純な操作が交錯し、なんとも言えない違和感がプレイ中ずっと浮かび上がってくるのです。 簡単に言えば、単にブロックの数を調整するだけのゲームプレイに対して、人が凍え死んだり過熱で死んだりする可能性があるというこの不愉快な世界観のシステムが、ゲームをすればするほど余計な想像力を刺激するという点が、私に深い印象を残しました。そのため、このゲームのパズル性はすでに短いプレイを通してある程度把握できたにも関わらず、「ゲームが出たら必ず買おう」と心から決めたのです。 説明したゲーム性と世界観と同様に、このイベントで目を引いたのは、ブースで配布されていたポストカードでした。ゲームデザインが基本的に二色だけで構成されているにも関わらず、配られていたポストカードには何とも言えないリッチさが感じられました。 よく見ると、ポストカードはグリッターのように輝く特殊な材質の紙でできており、濃い青色の画面と調和した光沢が、まるで星が瞬いているような錯覚を起こさせていたのです。ゲーム画面も詳しく見ると、粒子のようなグリッチが画面上に常時表示されていたので、そのようなポイントに着目したのかもしれませんね。とにかく、この特殊な材質の紙を使ったポストカードは、他のブースで配布されているものの中でも端然際立っていました。 シンプルなゲーム性からも多くのことを学べる作品でしたが、このような細かい部分に対するこだわりとディテールからも、本当に勉強になったと思います。今後の開発を含め、ほかのイベントでお会いできることを楽しみにしています。