こんにちは、SKOOTA GAMESのネゴラブチームに所属しております、モブです。 さて先日、私は世界最大級のゲームの祭典、「東京ゲームショウ2025」の会場、幕張メッセにいました。会場を埋め尽くす圧倒的な人の波、巨大なブースから鳴り響く音と光、そして誰もが知る大手パブリッシャーが掲げる華やかな新作タイトルの数々…。その凄まじいまでの熱量は、他のどのイベントとも比較にならない、まさに“祭典”と呼ぶにふさわしいものでした。 そんな巨大な光の洪水の中で、私はむしろ、その片隅で静かに、しかし強烈な個性を放つ小さな宝石たち、すなわち「インディーゲーム」のエリアに、自然と足が向かっていました。なぜなら、これほど大きな舞台で、AAA級のタイトルと肩を並べて展示されるからこそ、インディーゲームが持つ本来の魅力と、その底力のようなものが、より鮮明に見えてくるのではないかと思ったからです。 東京ゲームショウは、アジアを越え、世界中のゲームが集まる場所です。日本国内の作品はもちろん、様々な国からやってきたゲームたちが、ここでは同じ空間で輝きを放っています。 今回のレポートでは、そんなTGSという巨大な舞台だからこそ、より一層その存在が特別に感じられた、国境を越えた六つのインディーゲームとの出会いを、前編・後編に分けてお届けしようと思います。 【前編】では、その中でも特に、ユニークなゲーム性と世界観で私の足を止めさせた、三つの作品をまずご紹介いたしましょう。 ご応募ありがとうございます:喧騒の中で突き付けられた、静かな“現実” 巨大なホールを歩き回り、四方八方から鳴り響く音と光に少しだけ眩暈を覚えた頃。私がインディーゲームエリアで最初に足を運んだのは、TGSが選ぶ「Selected Indie 80」にも選出された、中国発の面接シミュレーションゲーム『ご応募ありがとうございます』でした。喧騒から少しだけ離れた、窓から穏やかな光が差し込むそのブースは、まるでこの祭典の中で唯一、現実世界と繋がっているかのような、不思議な静けさを湛えていました。 このゲームでプレイヤーが演じるのは、大学を卒業したばかりの主人公「C89」。人々が名前ではなくコードネームで呼ばれ、社会人は頭にテレビのような機械を被っているという奇妙な世界。学校を卒業した彼(プレイヤー)はビザを失わないために、とある会社の面接官となります。そして、昨日までの自分と同じ立場である学生たちを、マニュアルに従って冷徹に選別していくのです。 自分が生き残るために、自分とよく似た境遇の誰かを切り捨てなければならないという構造的な皮肉。そして、面接官という立場になって初めて知る、理不尽な評価システム…。プレイ中、私の胸に去来したのは、「面白い、だけどどこか不快だ」という、非常に複雑な感情でした。周りの華やかなブースとはあまりにも対照的に、このゲームだけが、現代社会の冷たい現実を静かに突きつけてくる。そんな感覚に陥りました。 試遊後、開発者の方に少しお話を伺うことができました。「このゲームは自身の経験が元になっているが、決して中国だけの話ではない」と。若者が就職活動で感じる苦悩や、家族からのメールを読みながら一人感じる孤独。そういった感情は、国や文化の壁を越えて誰もが一度は経験するであろう、普遍的なものかもしれません。 世界中のゲームと人々が集まるこの東京ゲームショウという場で、中国からやってきたこの一本のゲームが、これほどまでに普遍的で、胸に突き刺さるようなメッセージを放っていたという事実。それこそが、大手タイトルの華やかさの中にあっても決して色褪せない、“インディーゲームの持つ力”なのかもしれません。 本作は現在Steamで体験版が配信されているとのこと。この「面白い、けどどこか気まずい」という、一言では言い表せない複雑な後味。ぜひ一度、ご自身の舌で味わってみてほしい、そんな作品でした。 サバキスタン・犬の国:言葉の壁を越える、全体主義国家の“空気感” 次にご紹介するのは、ロシアからやってきたアドベンチャーゲーム『サバキスタン・犬の国』です。後から知ったことですが、本作はロシアのコミックが原作となっているそうですね。 物語の舞台は、長きにわたり国境を閉ざしてきた謎多き独裁国家「サバキスタン」。偉大なる指導者の葬儀リハーサルを機に、初めて世界中のジャーナリストを招き入れたこの国で、カメレオンのジャーナリスト「アンリ・パスカル」は、国家が隠蔽する秘密を暴くため、危険な取材を始めることになります。 正直に言うと、日本語へのローカライズはまだ少しぎこちない部分がありました。しかし、それを補って余りあるほど、このゲームが描き出す世界の“空気感”は、強烈な説得力を持っていました。一度見たら忘れられない力強いアートスタイル、緻密に描かれた街の風景、そして時折挟まれる高品質なアニメーション…。言葉の意味を完全に理解できずとも、「この世界がどれほど異常で、息苦しい場所なのか」は、画面を通して痛いほど伝わってくるのです。 その雰囲気作りは、ゲームの外にまで及んでいました。ブースには指導者の肖像画が掲げられ、スタッフの方は角張ったスーツを身に纏い、試遊を終えたプレイヤーには記念のバッジが手渡される。個人的には、どこか韓国映画で描かれる北朝鮮の姿を彷彿とさせられましたが、こうした徹底した演出のおかげで、私もすっかりサバキスタンに潜入した一人のジャーナリストのような気分を味わうことができました。 ゲームプレイで特に面白かったのは、選択の結果が即座に破滅へと繋がる、その容赦のなさです。例えば、ホテルの清掃員に感謝のチップを渡そうとすると、その行為が監視の目に留まり、即座にゲームオーバーとなってしまう。このディストピアの厳しさを、身をもって体験させられました。(現地の体験版ではセーブ機能がうまく働かなかったのですが、そのたびにスタッフの方が親切に対応してくださったのが、唯一の救いでしたね。) もし今後、ローカライズがさらに磨かれれば、本作は単なるアドベンチャーゲームに留まらず、プレイヤーが独裁国家というものをリアルに体験し、自らの価値観を問い直すきっかけを与えるような、素晴らしい作品になるだろうと感じました。2026年のリリースが予定されているとのことですが、それまでは原作コミックを読んで、このミステリアスな国のことをあらかじめもっと知っておきたいと思います。 PVKK: 惑星防衛砲指揮官:理屈を超えた、“体験”の絶対王者 さて、【前編】の最後を飾るのは、ドイツからやってきた『PVKK: 惑星防衛砲指揮官』です。このゲームについて、多くを語る必要はないのかもしれません。なぜなら、本作がSelected Indieエリアで放っていた存在感は、もはや理屈を超えていたからです。 開発を手掛けるのは、Bippinbitsというドイツのスタジオ。彼らは『Buckshot Roulette』のリアルな対戦台や、『No, I’m not a Human』の家のドアを模した体験ブースなど、ゲームの世界観を現実世界に具現化する、特殊な展示機材の制作でも知られているようです。私もいくつかのイベントでそういう体験型ブースを見てきましたが、今回インディーゲームエリアに鎮座していたこの巨大なコントロールパネルは、それらとはまた違う、圧倒的なスケールでした。 ゲームの内容自体は、惑星に迫る脅威を巨大な防衛砲で迎撃するという、比較的シンプルなものです。しかし、このゲームの本質はそこにはありません。総重量300kgにも及ぶという、無数のボタン、レバー、メーター、そしてモニターが埋め込まれた巨大な鉄の塊。それを目の前にして、実際にレバーを握り、ボタンを押し込み、腹の底に響くような轟音と共に砲弾を発射する。この、あまりにも馬鹿げていて、しかしだからこそ最高に興奮する「体験」こそが、今度TGSで出会えたこのゲームの全てなのです。 正直なところ、この体験が、家庭用のPCやコンソールでどこまで再現できるのかは、まだ未知数です。しかし、そんな疑問は些細なことに思えました。ドイツから日本の、それもインディーゲームのエリアに、これほどの物量を持ち込んででも「自分たちが作りたい体験はこれだ」と、強烈な意志を叩きつけてくる。その情熱と狂気にも似たこだわりは、AAA級タイトルの莫大な宣伝費とは全く違う方法で、しかし同等かそれ以上に、私たちの心を鷲掴みにします。 リリース前の作品に、これほどの「体験」をさせてくれたことに、今はただ感謝しかありません。製品版で再びこの砲台の指揮官となれる日を、そして願わくは、どこか国内外のイベントでこの鉄の塊と再会できることを、心から楽しみにしています。 前編の終わりに さて、ここまで中国、ロシア、そしてドイツと、三つの異なる国からやってきた個性的なインディーゲームをご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。現代社会の不条理を鋭く切り取ったシミュレーション、言葉の壁を越えて伝わる強烈な世界観、そして理屈を超えた圧倒的な「体験」。それぞれのアプローチは全く異なりますが、そのどれもが、TGSという巨大な祭典の中で、大手タイトルに負けない確かな輝きを放っていました。 続く【後編】では、また別の国からやってきた、三つの素晴らしい作品をご紹介します。それでは、また。
東京ゲームダンジョン9:ゲームが投げかける“問い”と、開発者が探す“答え”
こんにちは、SKOOTAGAMESのネゴラブチームに所属しております、モブです。 さて今回も、8月3日(日)に東京・浜松町で開催された「東京ゲームダンジョン9」へ、足を運んでまいりました。3~4か月という短いスパンで開催されるこのイベントは、もはや私にとっても馴染み深いものとなりつつあり、会場の扉をくぐると、どこか「帰ってきた」ような感覚さえ覚えてしまうほど。夏の盛り、外の暑さに負けないほどの熱気をそこで感じてきました。 同じくゲームを作る一人の人間として、こうしたイベントに参加するたびに、いつも一つの問いが頭に浮かびます。「一体、何がこれほど多くの作り手を、この場所へと駆り立てるのだろうか」と。そこで今回は、その問いの先に続く、もう少しだけ踏み込んだ質問を、各開発者の方々に投げかけてみることにしたのです。 一つは、「今回、東京ゲームダンジョンに参加された理由は?」。 そしてもう一つは、「ご自身が考える“良いゲーム”とは何ですか?」という、少し踏み込んだ質問です。 興味深いことに、いただいたお答えは、奇しくも彼らが展示しているゲームそのものに、深く結びついているように感じられました。まるで、一つ一つのゲームが、作り手自身が導き出した「良いゲームとは何か?」という問いに対する、それぞれの“答え”であるかのように。 今回のレポートでは、そんな熱気に満たた空間で私が出会った、四つの個性的な“問い”と“答え”の記録を、お届けしたいと思います。 レイチェルの思い出:キーワードで紡ぐ、記憶と時間のミステリー 今回の東京ゲームダンジョン9で、私が最初に足を運んだのは、以前から何度もブースを通りかかり、ずっと気になっていた作品、『レイチェルの思い出』でした。イベントに出展する開発者の方々の声を聞く、という今回のレポートの趣旨にも、まさにぴったりのタイトルだと思ったのです。 本作は、タイトルにもなっている少女「レイチェル」が、主人公「鹿島かをり」の目の前で命を落とすという、多少ショッキングなシーンから幕を開けます。(血の表現が苦手な方は、少し注意が必要かもしれません。)偶然手に入れたタイムマシンでレイチェルが死ぬ前の時間に戻った鹿島を通して、プレイヤーは二人の関係、そして事件の真相を、記憶の断片を辿りながら解き明かしていくことになります。 このゲームで特に印象的だったのは、そのゲームシステムでした。プレイヤーは過去の出来事を追体験する中で、物語の鍵となる「キーワード」を自ら抽出します。そして、そのキーワードが、次の展開へ進むための「正解」となっていく。何より驚かされたのは、この一連の流れが、プレイヤーにストレスを感じさせることなく、非常に自然な形でデザインされたという点です。物語の謎を解けたいという純粋な好奇心が、キーワードを探すというゲームプレイのモチベーションへと直結し、気づけばぐっと物語の世界に引き込まれている。そんな絶妙なバランス感覚に、私は感心させられました。 短い試遊時間ではありましたが、物語の導入部が持つインパクトと、ノベルゲームとしての完成度の高さは、特筆すべきものがあったように思います。そして、誰でもすっと世界に入ってこれる本作の親切な設計は、まさしく開発者の方が考える「良いゲーム」の定義そのものにありました。 開発者への二つの質問 さて、今回私は各ブースで、開発者の方に二つの同じ質問をさせていただきました。『レイチェルの思い出』の開発者の方は、次のように答えてくださいました。 ――今回、東京ゲームダンジョンに参加された理由は? 誰でもプレイしやすい環境ですし、開発者にとってもユーザーにとっても、とても親切なイベントだと思います。机も大きくて使いやすいですし。また、短いスパンで開催されるので、開発の進捗を出す上でのモチベーションにもなっています。 ――ご自身が考える「良いゲーム」とは? 誰でも簡単に入れて、プレイができるゲームです。個人的に、複雑なルールや操作性のゲームは苦手だと感じてしまうので…。だからこそ、このゲームでも、誰もがすっと世界に入ってきて、自然にルールを理解して遊べるようなゲーム性を目指しました。 _turing:AIとの対話が生む、心地よい“時間” 次に足を運んだのは、ブースで配布されていた一枚のステッカーがきっかけだったノベルゲーム『_turing』でした。メインキャラクター「アイリス」ちゃんの横顔が描かれた、美しいピクセルアートのステッカー。ちょうど開催日が重なり、視察を断念した「Pixel Art Park 8」への心残りを、少しだけ癒してくれるような出会いでしたね。 『_turing』は、AIとのチャットを通じて物語を進めていく、インタラクティブ・ノベルゲームです。PCゲームとしては珍しい縦長のディスプレイもさることながら、やはり目を引いたのはその独特の雰囲気でした。色数を抑えたように見えるゲーム画面、静かにかつ少し動いたりするアイリスの様子。その全てが、プレイヤーを急かすことなく、ただそこにいることを許してくれるような、不思議な心地よさを生み出してくれていました。「ただ、この子と雑談をしているだけでも、きっと楽しいだろうな」と、プレイしながらもそんなことを考えてしまうほどです。 もちろん、ゲームとしての作り込みも丁寧だと思います。AIを活用したゲームらしく、プレイヤーの入力によって多くの物語の分岐が用意されているとのこと。試遊中、名前を尋ねられて答えると、その名前がきちんとUIに反映されるといった細やかな配慮にも、開発者の方の誠実な姿勢が感じられました。 本作は現在Steamで配信中とのことですが、個人的には、いつかストーリーの攻略とはまた別に、ただアイリスちゃんとのんびり会話を楽しむだけのモードが追加されたら嬉しいな、なんてことを夢想しているひと時でした。 開発者への二つの質問 『_turing』の開発者の方は、私の二つの質問に、次のように答えてくださいました。 ――今回、東京ゲームダンジョンに参加された理由は? ユーザーの方に直接会って、こうやって話ながらその体験や感想に触れることができるイベントだからです。 ――ご自身が考える「良いゲーム」とは? ユーザーが、自らの手で物語を書き換えていくような体験ができることだと思います。『_turing』もその思いを込めて作った作品です。 ∀stround:イベントと共に“成長”する、無重力シューティング 『∀stround』は、私にとって旧知の仲、とでも言うべき作品です。というのも、過去の東京ゲームダンジョンで、既に何度かその姿を見かけていたからです。無重力空間を回転しながら敵を撃ち落とす、というコンセプトのカジュアルなシューティングゲーム。数ヶ月前に一度プレイしたことがありました。 正直に言うと、その時の私の感想は「惜しい」そのものでした。グラフィックもゲームのコンセプトも素晴らしい。しかし、キャラクターの移動とエイムを別々に操作する独特のシステムに、なかなか慣れることができなかったのです。ゲームの面白さを理解する前に、次々と現れる敵に襲われ、悔しい思いでブースを後にした記憶があります。 しかし、今回改めてプレイした『∀stround』は、あの頃とは全く違う手触りでした。エイムを補助してくれる機能や、体力を回復できるアイテムがたくさん追加されたことなど、プレイヤーを配慮してくれる要素が随所に足され、以前感じたとんでもない難しさが、見事に「歯ごたえのある面白さ」へと昇華されていたのです。プレイ後に残る後味の良さが、以前とは全く違うものでした。 これはきっと、開発者の方が何度もイベントに出展し、多くのプレイヤーの声に耳を傾け、試行錯誤を繰り返してきた努力の賜物なのでしょう。東京ゲームダンジョンに通うたびに思うのは、新しいゲームとの出会いと同じくらい、こうした「再会」が増えていくということです。そして、その再会のたびに、ゲームが少しずつ、しかし確実に成長していく姿を目の当たりにできる。それはまるで、経験を積んでレベルアップしていくRPGのキャラクターを見守るような、不思議な喜びがあります。これこそが、このイベントの持つ大きな意義の一つなのかもしれませんね。 開発者への二つの質問 『∀stround』の開発者の方の答えは、私が感じたゲームの「成長」の理由を、裏付けてくれるものでした。 ――今回、東京ゲームダンジョンに参加された理由は? ユーザーと頻繁に、しかもたくさん会えるイベントだからです。プレイヤーがどんな画面と向き合って、どんな反応をするのかを直接目で見れること、そして実際に感想を聞くことを通して、より良いゲームバランスを見つけ出していくことを目指しています。 ――ご自身が考える「良いゲーム」とは? プレイヤーが常に判断しなきゃいけないゲームです。例えばこのゲームなら、回転という要素の中で、目の前の敵を撃つべきか、それとも敵がいない安全な場所へダッシュして逃げるべきか。そういった判断を、常にプレイヤーにせめることを意識しています。 黒くないカギで開かないドアはない:言葉の“ルール”で世界を書き換える遊び 最後に紹介するのは、Studio ZeFさんが手掛けるパズルプラットフォーマー、『黒くないカギで開かないドアはない』です。以前、別のレポートでZeFさんの『Tournamentris』を紹介したことがありますが、それからまだ5ヶ月も経っていないという事実に、時の流れの速さよりも「もう新作を?」という驚きが先立ちました。こんな短いスパンで、全く異なる、それでいて確かな面白さを持つ作品を生み出し続ける。その創作の速度と熱量には、ただただ圧倒されるばかりです。 さて、本作のルールも非常に独創的です。プレイヤーは、世界の法則を司る文章から「ない」という言葉を抜き取ったり、別の文章に付け加えたりすることで、その空間を支配するルールそのものを書き換え、道を切り拓いていきます。例えば、「カギは重くない」という文章から「ない」を抜き取れば、「カギは重い」となり、宙に浮いていたカギが地面に落ちてくる、といった具合です。 一見すると、ルールと文字だけで構成された無機質な世界のようですが、その実、このゲームは驚くほど「遊び心」に満ちています。抜き取った「ない」を別の場所に付けてみたり、文章の長さを利用したトリックが隠されていたり…。その仕掛けの数々に触れるたび、私はこの無機質な世界の中に、確かな人間的な“体温”のようなものを感じていました。 試遊後、開発者のZeFさんと少しお話しする機会があったのですが、私が「どうしてこんなに速いスピードでゲームを次々と作れるのですか?」と尋ると、ZeFさんは笑いながら「ゲームを完成させないからです」と答えてくれました。…では目の前にあるこのゲームは、一体何なのでしょうか。そんな哲学的な問いはさておき、その言葉の裏にある、ZeFさんの創作に対する姿勢が垣間見えたような気がしました。 開発者への二つの質問
境を越えるインディーの“熱”―BitSummit the 13th 合同レポート【ハナ編】
初めまして。SKOOTA編集部のイ・ハナと申します。いやはや、今年の京都の夏は本当に暑かったですね。後輩のモブが素晴らしいレポートを届けてくれた【前編】に続き、この【後編】は、わたくしイ・ハナが担当させていただく運びとなりました。 モブくんが海外のインディーゲームに注目した一方で、私はやはり、自身のルーツである「韓国のインディーゲーム」のブースに、自然と足が向かっておりました。特に今回は、韓国コンテンツ振興院である「KOCCA」が大規模なブースを構え、多くの韓国インディーゲームが日本のゲーマーの方々に紹介されていたのです。 かつて韓国のイベントで出会った作品が、こうして日本の大きな舞台で注目を浴びている光景は、個人的にも胸が熱くなるもでした。さて、そんな思い入れも交えつつ、私がBitSummitで出会った、個性が際立つ二つの「韓国インディーゲーム」について、ご紹介していきたいと思います。 破滅のオタク:ローカライズの難しさにも負けないゲームの魅力 まずご紹介いたしますのは、チーム「キウィサウルス」さんが手掛けるアドベンチャービジュアルノベル、『破滅のオタク』です。実はこちらのゲーム、以前私が韓国のイベントレポートで取り上げたこともあるのですが、今回KOCCAブースの一員として日本に初上陸し、ブースは常にたくさんの方で賑わっていて、一人のファンとして大変嬉しく思っておりました。 ご存じない方のために改めてご説明しますと、このゲーム、「ネットゲームのオタクである主人公が、限定グッズの共同購入で集めた500万ウォンを使い込んでしまう」というとんでもない導入から始まる、破滅的な物語です。そのストーリーもさることながら、本作の真の魅力は、その「ゾッとするほどのリアリズム」にあると私は考えております。オタク特有の言い回し、コミュニティの空気感、自虐的な思考回路…。知っている方ほどニヤリとし、そして同時に「これは自分のことなのでは…?」と胸が痛くなるような、絶妙なラインを突いてくるのです。 今回、日本の会場で改めて本作に触れてみて「日本語でもプレイできる」ということに驚きと嬉しさを覚えた私でしたが、一点だけ、少しながら懸念が頭をよぎりました。それは、「このゲームの本当の面白さ、日本の皆様にどこまで伝わっているのだろうか?」ということです。このゲームの面白さは、韓国のネットミームやオタク文化への深い理解があってこそ、その真価が120%発揮されるといっても過言ではございません。もちろん、日本語へのローカライズも丁寧に行われておりましたが、文化の壁を超えなければ伝わらない、言葉の裏にある微妙なニュアンスはどうしても伝えにくいところだと感じました。 『破滅のオタク』というタイトルは、主人公の「ジンダ」を指す言葉ですが、もしかしたら、このゲームのディープなネタを一つ一つ理解し、「面白い!」と感じてしまう私たちプレイヤー自身もまた、一般の方から見れば「破滅」への道を歩んでいるのかもしれないと思いつつ…。そんな、自虐的で少し背筋の寒くなるような共感が、このゲームの本当の恐ろしさであり、魅力なのだと思うのです。 これからもローカライズの道は、きっと茨の道でしょう。それでも、この唯一無二のアートスタイル、破滅的なのにどこか愛おしさを感じてしまうストーリーと世界観、そして誰よりもオタクを理解している開発者の皆様の情熱が、日本を、そして全世界を魅了する日が来ることを、私は心から願っております。 Dimension Ascent:“ユーズマップ世代”が切り拓く、新たな次元への挑戦 続いてご紹介するのも、同じくKOCCAブースで出会った、2Dと3Dが融合したプラットフォーマーアドベンチャー『Dimension Ascent』です。視点を切り替えて次元を行き来する、というパズルアクションで、以前モブが紹介していた『LOVE ETERNAL』と通じる部分もあるかもしれませんね。 ゲームとしては、非常にバランス感覚に優れた優等生、という印象でした。ただ見ているだけでは進めない道を、視点を切り替えることで突破していく。この「ひらめき」の感覚がとても気持ちよく、難易度も「うーん…」と悩む時間と「これだ!」と試してみる時間のバランスが絶妙で、ストレスなく楽しむことができました。ストーリーが少し掴みづらいかも、という点はありましたが、それを補って余りある面白さが、このゲームにはあったと思っております。 しかし、私がこのゲームを取り上げたいと思った最大の理由は、ゲーム性そのものよりも、開発者の方のプロフィールにありました。ブースでお聞きした、「スタークラフトのユーズマップ制作者出身」という、短い一文。この記事を読んでいる日本の皆様に、この一文が持つ「意味」が、果たしてどれだけ伝わるでしょうか? 少しだけ、韓国のゲーム文化のお話をさせてください。90年代後半から2000年代にかけて、『スタークラフトStarCraft』は韓国で社会現象と呼ばれるほどの絶大な人気を誇りました。そして、その人気を支えた大きな要因の一つが、「ユーズマップ(Use Map Settings)」の存在です。これは、ユーザーがゲーム内の機能を使って、全く新しいルールのオリジナルマップを自由に作り、共有できるという、当時としてはかなり斬新な遊びの一環でした。つまり、ユーズマップ制作者とは、「ゲームの中で、新たなゲーム性を見出し、遊びを提供する人」「ユーザーを楽しませるためにコンテンツを生み出す、ユーザーの中の開発者」のような、特別な存在だったのです。 そんな、いわば「遊びの天才」が、今、インディーゲームという新たなフィールドで、ゼロからご自身の作品を創り上げている。この事実だけで、とてもワクワクしませんか? 既存のゲームの枠組みの中で新しい遊び方を発見してきたそのご経験が、「視点を変えることで新しい道を発見する」という『Dimension Ascent』のコンセプトに、見事に昇華されているように私には感じられました。 ゼロから始まったこの挑戦が、BitSummitという世界への扉をこじ開け、より多くのプレイヤーを魅了していく。そんな未来を、心から応援したくなりました。そんな開発者の方の「物語」ごと、ユーザーとして楽しめるな作品でございました。 国境を越えて、ゲームは“熱”を伝える さて、わたくしイ・ハナがBitSummitで出会った、二つの個性的な韓国作品をご紹介してまいりました。ローカライズの壁という大きな課題がありながらも、その奥にある「オタク」というカルチャーへの深い共感が魅力の『破滅のオタク』。そして、開発者の方のユニークな経歴が、ゲームシステムそのものに物語性を与えている『Dimension Ascent』。どちらの作品も、ただ「面白い」というだけでは語り尽くせない魅力に満ちていました。 今回のBitSummitは「国際性」そのものを肌で感じられる、素晴らしいイベントでした。モブが紹介してくれた海外のゲームも、私がご紹介した韓国のゲームも、作られた場所も言葉も、そして文化も異なります。ですが、その根底にある「面白いものを作りたい」という作り手の純粋な熱意と、「これはわかる」というプレイヤーの共感は、驚くほど似ているように感じました。 結局のところ、インディーゲームの面白さとは、完成された製品としてのクオリティだけではなく、そのゲームが「なぜ」「どのように」生まれたのかという物語や、作り手の「こだわり」や「情熱」に触れることにあるのかもしれません。BitSummitという場所は、そんなゲームが持つ「言葉を超えた力」を改めて実感させてくれる、最高の空間でした。 この熱気を胸に、私たちSKOOTAGAMESも、自分たちのゲームで誰かの心を動かせるよう、また明日から頑張っていこうと思います。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました! 今回のBitSummit、締めの一言 最後に、今回のイベントにおける感想を一言で表すと…
