2025.04.17 今からちょうど1年前のSeason1#6にて書いた第5世代ガールズグループ大戦のコラム。 そこでは、ILLITとBABYMONSTERの2強にオーデション番組「I-LAND2」から生まれる新たなガールズグループが割って入るのではないかと予想していたのだが、実際はもっとたくさんの第5世代のガールズグループがデビューし、予想よりも遥かに混沌としている状況だ。 その混沌を生み出した筆頭と言えるグループが2組ある。 SMエンターテイメントから2月にデビューしたHearts2Hearts(ハーツ・トゥー・ハーツ)とSTARSHIPエンターテイメントから3月にデビューしたKiiiKiii(キキ)だ。 Hearts2HeartsはSMがaespa以来5年ぶりにデビューさせたガールズグループ。 先輩のaespaとは打って変わってガルクラ要素は一切なく、どちらかというとさらに上の先輩Red Velvetに近い印象を受けた。 思春期女子にはブッ刺さるであろう夢幻的で儚げな世界観は、今の若手にはあまりいないし、人数は8人でSMの象徴である少女時代以来の大人数グループと、古き良きSMを感じさせるグループとなっている。 そしてデビューアルバム「The Chase」は初動売上枚数40万8880枚を記録。 これは2024年にBABYMONSTERが40万1287枚で記録したデビューアルバム売上記録を塗り替える歴代1位の数字。 名門SMからの新人ということで期待値が高かったものの、それすらもさらに上回る成績で圧巻のデビューとなった。 対してKiiiKiiiはSTARSHIPがIVE以来4年ぶりにデビューさせたガールズグループ。 KiiiKiiiはNewJeans以降、KPOPで主流となったY2Kコンセプトを軸にしているのだが、2000年代というより90年代感すら感じる世界観で、アルバムリリース前に公開された’DEBUT SONG’のMVの絶妙な古ダサさ(褒めてます)は作り手のセンスを感じたし、それを見事に消化しているメンバーのポテンシャルの高さにも驚かされた。 デビューアルバム「UNCUT GEM」は初動売上枚数20万6712枚を記録。 先に記したHearts2Heartsが40万枚以上売上げている分、「その半分か」という印象をお持ちの方もいるとは思うが、4大事務所(HYBE,SM,YG,JYP)以外からデビューしたガールズグループでデビューアルバムが初動20万枚を超えたのはKiiiKiii含め3組しか存在しない(そのうちの1組は我が推しKep1er!)ため、この数字が如何に凄いかお分かりいただけるだろう。 さらにKiiiKiiiの強みはその音源成績の強さにある。 タイトル曲の「I DO ME」は3月25日付けのMelonチャートTOP100で10位を記録。 IVEというトップグループを擁しているとは言え、STARSHIPはまだまだ中小事務所であり、この中小事務所のアイドルとしてデビューからトップ10はそう簡単に達成できる事ではない。 現に大手事務所SMからデビューしたライバルのHearts2HeartsはMelonチャートTOP100での最高順位が26位だという事実から、KiiiKiiiの10位が如何に高いか、これまたその凄さがお分かりいただけるであろう。 そして、最後に第5世代のダークホース的グループがizna(イズナ)だ。 iznaは正にSeason1#6にて書いたオーデション番組「I-LAND2」から生まれたガールズグループで、同じくMnetのオーデション番組「Girls Planet999」(通称ガルプラ)から生まれたKep1erの妹的グループ。 現時点ではHearts2HeartsやKiiiKiiiと比べると成績面ではまだまだな印象なのだが、メンバーのポテンシャルは先の2組に負けないものを持っていると思うし、何よりオーデション番組出身の一番の強みである、熱いオタクがついている。 その証拠にデビューアルバムの初動売上は25万1131枚と、KiiiKiiiの20万6712枚を約5万枚も上回っている。 しかし、音源成績は先の2組には遠く及ばず、MelonチャートTOP100にはまだ一度も入ったことがない。 これが、成績面ではまだまだと言った1番の理由だ。 要するに、CDを積む熱いオタクは付いているものの、サブスクで音楽を聴いてもらえるほどの韓国大衆認知度はまだ無い。 ただ、Kep1erがそうであったように、韓国以外での認知度や人気を獲得することが出来ればまだまだ同じ土俵で戦える可能性は秘めている。 なんと言ってもizna最大のアドバンテージはBLACKPINKのプロデューサーであるTEDDYがプロデュースを行なっている点にある。 これは今や世界中にファンを持つBLACKPINKファンの琴線に触れる曲をTEDDYがiznaに提供しようもんなら、瞬く間にシンデレラストーリーを歩む未来が訪れてもおかしくはないのだ。 「I-LAND2」をリアタイで全話見て、さらには推しのKep1erの妹分であるという推しフィルターがかかっているのは否定できないが、iznaにはここから爆売れして欲しいと切に願っている。 そして著者は最近気づいたことがある。 どうも自分は「アンダードッグ」的立ち位置の人やグループが、スターダムを駆け上がって行くのを応援したいと思う傾向にあるようだ。 KPOPで言うと、大手事務所ではなく中小事務所からデビューして大手事務所グループと渡り合うグループにどうしても肩入れしてしまいがちだ。 それにオーデション番組がかけ合わさると、もうおしまいだ。 いずれにしても、現時点での第5世代ガールズグループのトップランカーであるILLITとBABYMONSTERに肉薄する形で追随するHearts2HeartsとKiiiKiiiという構図の中に、近い将来iznaが割って入ってきて、 「混沌の第5世代ガールズグループ」をさらなる混沌へと誘う世界が訪れるのを楽しみにしていようと思う。 了 猫町ぺこー SKOOTA KPOP部チーム長 〈元々は洋楽ロックオタクで一時期ロッキンオンに就職しようかと思っていたほどの音楽通。BTSキッカケでKPOPを聴くようになりその後BLACKPINKにハマり、KPOP沼に片足を突っ込む。サバイバルオーディション番組『Girls Planet 999』通称ガルプラにどハマりし、ここからデビューしたKep1erのガチオタとなった結果、両足をKPOP沼に突っこむ事となった〉
出会いは終わらない!雨の川越インディー探訪~ぶらり川越 GAME DIGGレポート【後編】
こんにちは、モブです。SKOOTAGAMESのネゴラブチームに所属しています。雨の中お届けした川越 GAME DIGGレポート、今回はその【後編】となります。 【前編】では、一杯のうどんに地域コミュニティの熱い想いが込められていた『湯斬忍者』、そして「コエトコ」という特別な空間で、プレイヤー自身が旋律を奏でるという忘れられない音響体験をさせてくれた『MeloMisterio -play your melody-』という、雨の中でも際立つ個性を持った二つの作品をご紹介しました。どちらも、単にゲームシステムが面白いという評価だけでは語り尽くせない、深い余韻を私の中に残してくれましたね。 さて、この【後編】で焦点を当てるのは、もう少し個人的な感覚や記憶、あるいは遊びの本質といった部分に、より深い印象を受けた二つの作品です。それは、画面を通して作り手の優しい眼差しそのものに触れるような感覚であったり、あるいは、すっかり忘れていた「みんなで集まって遊ぶ」ことの原風景を、鮮やかに思い出させてくれるような体験であったり。 一つは、まるで会場となった川越の、あの日の雨上がりの空気までも丁寧に描き出しているかのような、温かく優しい雰囲気のゲーム。そしてもう一つは、難しい理屈は抜きにして童心に返り、思わず声を上げてしまうほど、協力して遊ぶことのプリミティブな熱狂と楽しさを、改めて実感させてくれたゲームです。 どちらの作品も、あの日の雨の中で、そしてぶらり川越 GAME DIGGという少し変わったイベントだからこそ出会えたからこそ、より強く私の記憶に刻まれているのかもしれません。では、【後編】最初の作品となる、心温まる里山の冒険から、じっくりと見ていくことにしましょう。 里山のおと 春さんぽ:雨音に溶け込むタヌキの小さな冒険と、忘れかけた視点 『MeloMisterio』の美しい音色の余韻に浸りながら会場を歩いていると、まるで導かれるように次なる素敵な作品、『里山のおと 春さんぽ』と出会いました。プレイしてまず強く感じたのは、「もしかして、この川越 GAME DIGGというイベントのために作られたのでは?」と思えるほど、会場の雰囲気、そして当日のしっとりとした雨模様に、驚くほど自然に溶け込んでいたことです。大げさではなく、周りのブースからも「このゲーム、すごく雰囲気に合ってるよね」という会話が聞こえてきたほどだったので。 ジャンルはポイント&クリック形式のアドベンチャー。友達キツネくんからの「桜の下でお弁当を食べよう」という心温まる手紙を受け取ったタヌキくんが、目的の桜の木を探して冒険に出かけます。道中で出会う動物たちの助言や、道端で見かける植物を注意深く調べて得られる手がかりを頼りに、正しい道を探し当てて進んでいく…という内容です。どこか遠い昔の記憶を呼び覚ますようなストーリー展開と、水彩の筆遣いを思わせる温かみのあるアートデザイン。外は冷たい雨が降りしきっていましたが、ゲームの中だけは満開の桜がプレイヤーを優しく迎えてくれました。 絵本のような雰囲気ですが、抱いたのは「意外なほど、しっかり”ゲーム”としての手触りがある」という感想でした。私たちが普段想像する壮大な大冒険ではなくても、「友達に会いに行く」という、ささやかでミクロな冒険の中にだって、プレイヤーがゲームに期待する「試行錯誤する面白さ」や「発見の喜び」は十分に詰め込めるのだ、と深く感銘を受けただけです。 プレイヤーは手に持っている図鑑や、動物たちのアドバイスを元に、周囲の植物を注意深く観察することになります。そして、特定の植物の特徴を手がかりにして、目の前に現れる分かれ道のどちらがゴールの桜の木へと続いているのかを推理していく…。まるで小学生の頃の自由研究の課題のような、微笑ましくもちゃんと頭を使う探索体験に、気づけば短いプレイ時間ながらすっかり没頭していました。 こうした体験がなぜこれほど心に残るのか。それは、作り込まれた壮大な物語に没入する楽しさとは別に、こうしたミクロな視点から描かれる世界に触れることで、作り手が普段どんな眼差しで身の回りの自然や世界に触れているのか。その温かい視点の一部を追体験できるからではないでしょうか。正直、子供時代には持っていた、けれど知らず知らずのうちに失ってしまう感性や視点というものは、きっと少なくないはずです。このゲームは、そんな忘れかけていた何か…小さな発見に喜ぶ気持ちを、そっと掬い上げてくれるような、プレイヤーとしてはただただ有り難い時間を提供してくれました。 ところで、この素敵なゲームに私がたどり着いた経緯においても、少し面白いエピソードがあります。実は、『MeloMisterio』と同じ会場「コエトコ」の片隅、テーブルの上にふと置かれていた一枚のポストカードが、全ての始まりでした。白い紙に描かれた美しい桜の木のイラストに心が惹かれ、何気なく手に取ってみると、裏面には可愛らしい四コマ漫画が描かれていました。ゲームの大まかな導入部分がそこで紹介されており、「なんだこの可愛いゲームは」と感嘆し、そのままブースへと足を運んでしまったのです。この一枚は今後も特に大切にしまっておくつもりです。 そのポストカード同様、関連グッズも繊細で魅力的でした。特にブースで配布されていた栞のデザインはどれも秀逸で、思わず全種類を手に取ってしまったほど。ちなみにこの栞、投げ銭50円から、と案内がありましたが、とてもそんな価値ではいただけないと思い、勝手ながら一枚50円計算で4種類分、200円をお支払いさせていただきました。…と、ここまでは良かったのですが、なんとその際にお財布をブースに置き忘れるという大失態をやらかしちゃいました。もし、私の顔を制作者さんが覚えていなかったら、あの土砂降りの雨の中、東京から再び川越まで財布を取りに戻るという悲劇に見舞われるところでしたね。その節は本当にありがとうございました… インディーゲームには制作者さんの「好き」が色濃く反映されますが、時にプレイヤーを選ぶことも。本作も植物や動物への深い愛情を感じますが、その表現がユニークで温かいためか、普段馴染みのない人でも自然と惹きつけられる魅力があります。それはまるで、自分の専門分野について誰よりも楽しそうに、そして熱っぽく語る人の話に、テーマ自体への興味はそこそこでも、その熱意や人柄に惹かれて思わず聞き入ってしまう時の感覚に近いのかと。このゲームは、もしかしたら自分の中にも眠っているかもしれない、「道端の草花や小さな生き物を愛でる心」と久しぶりに再会させてくれた、貴重な体験となりました。 PONKOTS:予測不能な”ポンコツ”が生む、最高のカオスと協力の熱狂 さて、今回のレポートで紹介する最後のゲームであり、そしてこの雨の川越 GAME DIGGで、個人的に一番「面白い!」と感じ、そして一番大声で叫びながらプレイしたのが、この『PONKOTS』です。もう名前からして、ただならぬ「何か」が起こりそうな予感がしますね。 このゲームのコンセプトはすなわち、「互いに弱点をフォローし合う」ということ。3人から最大8人でプレイ可能な、協力型の2Dカジュアルアクションなのだそうです。世界観としては、プレイヤーは小さなオモチャたちを操作し、互いに助け合いながら、悪いブリキの王様たちから逃げて生き延びる…という、可愛らしい見た目とは裏腹に、どこか闇っぽさも感じさせるストーリーが背景にある様子。基本的なルールは意外とシンプルで、プレイヤーたちに向かって飛んでくる砲弾(ホウダン)に当たらないよう、ひたすら逃げ回るのが大前提です。 ただしここで強烈なひねりが。特定時間毎にランダムで一人、「ポンコツ」なり操作不能状態に陥ってしまうのです。他のプレイヤーは動けなくなった仲間がホウダンに当たらないよう、必死で押し出して位置をずらしたり、時には自らが盾になったりして守らなければなりません。刻一刻と状況が変わる中で、瞬時の判断力と仲間との呼吸が試されるのです。 説明だけではピンと来ないかもしれませんが、このゲームの面白さは体験しないと100%伝わらないタイプかなと。ただし私の体験では、イベント試遊で間違いなく一番声をあげていたゲームでした。もちろん、雨が降る屋外に近い会場で、多少大声を出しても大丈夫だったという前提条件が付きますが。 最低3人から、というのが少しネックで、一人参加の私は諦めかけましたが、制作者の方二人が快く加わってくださり即席プレイがスタート。初対面なのに、まるで旧知の友人の家に集まってスマブラでも始めるかのような、和気あいあいとした雰囲気の中で、簡単なゲーム説明を受け、気づけばオモチャたちを必死に操作していました。実際のプレイには更に多くの要素がありますが、確かなのは「息つく暇もないカオス」を連続的に演出し、皆が「うわー!」「そっち行った!」「助けてくれー!」と悲鳴にも似た歓声を上げながら、それでも笑いが止まらない、最高のパーティーゲーム体験だということ。もちろん、制作者さんの盛り上げも素晴らしかったです。 この面白みを例えると、常に「時限爆弾のタイマーが残り1秒で、赤か青か、正しい色のコードを切らなきゃ」的な状況が続いていることかなと。ポンコツ化、砲弾、ギミック等全てが予測不能な「ワチャワチャ感」のために計算されています。90年代風レトロアートやガチャガチャと鳴る金属質な効果音、焦燥感を煽るアップテンポなBGMも、切迫感を増幅させていました。そして体験の核が「ランダム性」の絶妙な使い方。多くの要素がランダムに決まることで、プレイヤーは常に不安定さと不確実性の中に置かれます。予期せぬ脅威にアドリブで対応するしかない。この「不安」が協力しなければという一体感を生み、最終的に「爆笑」へ昇華されるのです。このゲームをプレイして、「ああ、本当に面白い協力ゲームって、こういう熱狂を生み出すものだよな」と、改めてその理想形の一つに触れたような気がしました。 …と熱く語りましたが、少し個人的で突飛かもしれない考察を一つ(私の勝手な解釈です)。本作は、ある意味で現代における”アンチ・テーゼ”としてのゲームなのかも、と感じました。というのも、昨今のゲームは洗練されたソロ体験や個人のスキル重視が主流に感じますが、『PONKOTS』の協力はもっとプリミティブ。「ポンコツ」になった仲間を周りが文字通り体を張って必死で助ける、相互扶助そのものに重きを置いています。「個」の熟練度よりも「場」の一体感や、「みんな」でいることの偶発的な楽しさ、友達の家で騒ぐあの原風景こそが本作の核ではないか、と。 「ランダム性」の扱いも同様です。多くのゲームでランダム性は「便利な万能調味料」的に使われがちですが、『PONKOTS』では違う。プレイヤーを助けるのではなく、むしろ脅かし、カオスと協力せざるを得ない切迫感を生む「揺らぎ」として機能しているのです。だから悲鳴を上げつつ笑ってしまう。それは、子供の頃、友達みんなでトランポリンに乗って、不安定な足場にまともに立っていられずに転げ回りながらも、なぜかみんなで大笑いしていた、あの時の感覚にとても近いのかもしれません。 制作者さんとは深い話はできませんでしたが、何よりも、初対面の私に対して、あれほど熱心に、そしてご自身も最高に楽しんでプレイに付き合ってくださったことに、心から感謝の気持ちを伝えたいです。普通、協力プレイが前提のゲームを一人で試遊するのは物理的にも心理的にもハードルが高いことが多いですが、『PONKOTS』に関しては、「このゲーム、絶対に誰かと一緒に遊びたい!」という気持ちが、プレイ後、非常に強く込み上げてきました。これは本当に久しぶりの感覚です。まだ制作中のゲームとのことですが、「このゲームがリリースされる日までに、一緒に腹を抱えて笑い転げられる友達を、ちゃんと作っておかないと」 そんな、未来への妙な決意(?)と期待感まで抱かせてくれた、素晴らしい作品との最高の出会いでした。 雨の川越、ゲームとの一期一会 さて、ここまで雨天の中開催された川越 GAME DIGGで出会い、心を掴まれた4つの個性的なインディーゲーム、『湯斬忍者』、『MeloMisterio -play your melody-』、『里山のおと 春さんぽ』、そして『PONKOTS』について語ってきました。どれも、あの日の天気、あの場所でなければ、また少し違った印象を受けたかもしれない…そんな、まさに一期一会と呼ぶにふさわしい出会いだったように思います。 正直なところを言えば、イベントの大きな特徴であったはずの「オープンタウン型」というコンセプトは、残念ながら降り続いた雨によって、そのポテンシャルを最大限に体験するには少し難しい状況だったかもしれません。パンフレットを片手に、歴史ある川越の街並みを散策しながら点在するブースを巡る…という、当初思い描いていた理想的な楽しみ方は、叶わなかった部分も確かにあるでしょう。 しかし、だからといって、このイベントでの体験が無意味だったかと問われれば、答えは断じて「否」です。『湯斬忍者』が教えてくれた、ゲームを通じた地域コミュニティの熱意と新たな交流の可能性。『MeloMisterio』が響かせた、歴史的建造物というリアルな空間とデジタルアートが融合する、不思議なな音響体験。『里山のおと』がそっと気づかせてくれた、日常のすぐそばに潜む小さな冒険と、忘れかけていた優しい視点。そして『PONKOTS』が叩きつけてきた、協力プレイというものの原初的な熱狂と、笑いの絶えない最高のカオス。 これら一つ一つの強烈なゲーム体験は、たとえ悪天候という逆風の中であっても、いや、むしろそんな状況だったからこそ、より一層その輝きを増し、私の記憶に深く、そして鮮やかに刻まれたのかもしれません。それぞれのブースで、雨にも負けず、自らの「好き」と「作りたいもの」を形にし、訪れる私たちと情熱的に繋がろうとしていた開発者の方々の真摯な姿も、間違いなくその輝きを後押ししていました。結局のところ、どんな状況であろうとも、面白いゲーム、心を動かすゲームというのは、その本質的な魅力を決して失わないものなのだな、と改めて実感した次第です。 今回の川越
アニメジャパン2025で体験した『未ル わたしのみらい』の世界
こんにちは、イ・ハナと申します。普段は日本のアニメーションスタジオに勤めながら、インディーゲーム開発とイベント参加に励んでおります。前回のレポートでご紹介したアニメジャパン2025ですが、今回は私が所属するスクーターフィルムズも参加している新作アニメ『未ル わたしのみらい』のブース体験についてお伝えしたいと思います。 オムニバスで描かれる未来へのメッセージ 『未ル わたしのみらい』は、5つのアニメーションスタジオがオムニバス形式で送る新作オリジナルアニメです。未来で生まれた武器を持たないロボット「MIRU」が時空を超えて、さまざまな時代の人々に寄り添うストーリーを描いている作品です。「MIRU」との出会いを通じて人々が小さな一歩を踏み出し、それがバタフライエフェクトのように大きな変化を生んでいくという物語です。 「未来は自分たちの手でつくれる」というメッセージを込めたこの作品は、私が所属するスクーターフィルムズと白組が組んでその中の一本を担当しています。色んな個性を持った複数のスタジオが結集したプロジェクトということもあり、業界内でも注目度の高い作品に間違いないでしょう。 会場を沸かせた巨大「痛トラクター」と賑わうブース アニメジャパン全体を回った後、『未ル わたしのみらい』のブースに向かったときの第一印象は人だかりの多さ。その人々を引き寄せていたのはほかでもなく、会場中央に鎮座する巨大な「痛トラクター」でした。一般的なアニメイベントでは見かけない異色の展示物に、多くの来場者が足を止めて写真を撮っていました。 大きな車体から感じられる迫力と、外装に描かれた本作のキャラクターたちがまじりあうことで、思わず「これは実際乗れるのかな?」と自ら尋ねてしまいました。実はこのトラクター、実際に搭乗体験ができるようになっていたのです。 私も順番を待って体験させていただきましたが、乗った瞬間の感覚は思った以上に楽しいものでした。まるで巨大ロボットのコックピットに座ったような気分で、どこか重大なミッションを背負って出撃するパイロットの気分を味わえました。これは子どもだけでなく大人も夢中になれるな、と思ったところでございます。 ブースでは「痛トラクター」だけでなく、声優トークショーも行われていました。作中の主人公の一人、マリオ・バスコ・デブリット役を演じる大野智敬さんが登場し、アフレコ現場でのエピソードを披露。特に印象に残ったのは、「アニメイベントでトラクターなんて、とんでもなくカッコよくないですか?」という言葉。会場全体が笑いに包まれる温かい雰囲気の中、作品への愛情が伝わってくるトークセッションとなりました。 スタッフとして感じた手応えと放送への期待 スクーターフィルムズの一員として今回のブースを訪れた私にとって、このような形で自分の所属するスタジオの作品を見られる機会はとても新鮮でした。普段は制作の裏側にいることが多いため、来場者の反応を直接見られたのは貴重な体験でしたね。 4月2日から始まる放送に向けて、すでにSNSでも話題になっている本作。アニメジャパンでの盛り上がりを見ると、多くの人々がこの「MIRU」の旅に期待を寄せていることがわかります。時代を超えて人々に寄り添うロボットの物語が、私たち現代人にどんなメッセージを届けてくれるのか—放送開始が今から待ち遠しく感じる、そんな特別な一日となりました。