
なかなかレアな風景が撮れました。
こんにちは、SKOOTAGAMESのネゴラブチームに所属しております、モブです。キーボードを叩く合間に、淹れたコーヒーの香りをそっと楽しむのが日課となりつつあります。
さて先日、私は新宿ルミネゼロで開催された、ノベルゲームオンリーのインディーゲーム展示会「DREAMSCAPE#3」へと足を運んでまいりました。「読む」ことを主体としたゲームだけが集まるという、なんともニッチで、しかしだからこそ奥深い魅力に満ちたこのイベント。会場は、物語を愛する作り手と遊び手の静かな熱気に包まれていましたね。
今回のレポートでは、そんなDREAMSCAPE#3で私が出会い、特に心惹かれた三つの個性的なノベルゲームをご紹介したいと思います。一口に「ノベルゲーム」と言っても、その表現方法やテーマは実に様々。ページをめくる手が止まらなくなるような、そんな作品たちとの出会いをお届けしましょう。
今日こそは_酔い潰れない_絶対に!:宅飲みの夜、グラスの向こうに揺れる“友情”と“本音”


まず最初にご紹介するのは、街八ちよさんが制作された『今日こそは_酔い潰れない_絶対に!』という作品。タイトルからして、なんだかこう…身に覚えのあるような、ないような(苦笑)、そんな親近感が湧いてくる作品です。
物語の主人公は、20歳の大学生「有馬」くん。彼が友人の辰巳くんと宅飲みをしながら、お酒のペースを調整し、酔い潰れずに最後まで会話を続けることを目指す、という割とローグライクテイストなアドベンチャーゲームです。可愛らしいドット絵のキャラクターとは裏腹に、うっかり飲みすぎると即ゲームオーバーで最初からやり直し、というちょっぴりシビアな難易度が、逆に「今度こそ!」という挑戦意欲に繋がります。
公式サイトにも記載がありますが、本作にはいわゆるBL的な要素も含まれているとのこと。ただ、私のようにその方面に明るくない人間が見ても、キャラクターたちのやり取りは微笑ましく、爽やかな青春の一コマとして楽しめました。しかし、それだけで終わらないのが本作の面白いところ。ふとした瞬間に見せるキャラクターたちの立ち振る舞いとセリフでは、そのBLという要素があるからこそ「これから一体どういうことが…?」と、プレイヤーの想像力を掻き立て、物語の奥深さを感じさせる絶妙なバランス感覚が光っていました。

驚くべきことに、この『今日こそは_酔い潰れない_絶対に!』は、「ノベルコレクション」で現在無料で公開されています。1プレイ5分程度と手軽に遊べるボリュームながら、エンディングは3種類用意されており、それぞれに到達するための条件も考察のしがいがあるなど、無料とは思えないほどしっかりとした作り込み。キャラクターたちの細やかなドット絵の動きも、見れば見るほど愛着が湧いてきます。
イベントで様々なゲームに触れるたびに思うのですが、「ただ面白いゲーム」と「語りたくなるゲーム」というのは、似ているようで少し違うのかもしれません。本作はまさに後者で、プレイヤーそれぞれがキャラクターたちの何気ない一言や行動から異なる感情を読み取り、それを誰かと共有したくなる…そんな「余白」を持った作品だと感じました。開発者の街八ちよさんによれば、なんと今後の新作も無料で公開予定とのこと。この記事を読んで少しでも気になった方は、ぜひ一度、有馬くんと辰巳くんの宅飲みに付き合ってみてはいかがでしょうか。

柘榴団地:日常に潜む“ルール”と、監視カメラ越しの不穏な視線

次にご紹介するのは、きじなごさんが制作された一人称視点のホラーアドベンチャー『柘榴団地』です。街のどこかに掲げられている「団地アパートの日勤警備員求人募集中」という一枚の貼り紙と、それに付随するいくつかの奇妙な「ルール」。これだけで、もうお分かりですかね?はい、いわゆる「ナポリタン怪談」のテイストを色濃く感じさせる作品でした。
プレイヤーは、どういう訳か「柘榴団地」で日勤警備員として10日間勤務することになります。主な業務は、警備室での監視カメラチェックや来客対応、そして団地内の巡回。しかし、そこにはいくつかの厳守すべきルールが存在します。「住人には必ず挨拶すること」「来客には必ず来客リストに本名を記載してもらうこと」…そして、「白装束の女には絶対に声をかけないこと」。これらのルールを破ると、何か言葉では形容しがたい危険が遅い、今までの平和な日常を失ってしまいそう…そういう匂わせをとことんなく感じてしまう立派なナポリタンでしたね。
ゲームの操作自体はポイント&クリック方式で非常にシンプル。しかし、そのシンプルさとは裏腹に、画面全体を覆う黒と赤を基調とした落ち着いた色調、可愛らしいキャラクターデザインと不釣り合いな実写的な背景の組み合わせが、言いようのない不気味さと「何か良くないことが起こりそうだ」という圧迫感を常にプレイヤーに与え続けます。監視カメラのザラついた映像、たまにビックリさせる物音、住人たちの意味深な言葉…。じわりじわりと精神的に追い詰められていく感覚は、まさに良質なホラー体験そのものでした。

上手い気がしました。

その中で私がこのゲームで特に興味深いと感じたのは、その「どこかで見たような感覚(デジャヴ)」の存在です。警備室のモニターで訪問者を確認し、リストと照合するシステムは、多くのプレイヤーがかの有名な『That’s not my Neighbor』を想起するでしょうし、監視カメラを通して異変を察知するという要素は『Five Nights at Freddy’s』シリーズを彷彿とさせます。試遊後、開発者の方と少しお話しする機会があったのですが、これらの作品から影響を受けたことをご本人から発言されたことに驚かざるを得ませんでした。
ともすれば模倣と取られかねないこの「影響」を隠さず、むしろリスペクトとして昇華し、そこに独自な世界観とストーリーをしっかりと構築している点に、私は制作者さんの真面目さと、なによりも「ゲームを作りたい」という強い情熱を感じました。驚くべきことに、制作者さんはゲーム制作を始めてまだ日が浅く、独学でここまで作り上げられたとのこと。その推進力と、既存の面白い要素を自分なりに解釈し再構築するセンスには、ただただ感服するばかりです。なので「あのゲームに似ているから」という先入観だけで本作を判断してしまうのは、非常にもったいない。もしどこかで見かける機会があれば、ぜひ一度、あなた自身の目で『柘榴団地』の日常を体験してみてほしいと思います。
Day Day Neon Tea:第四の壁の向こう側、タピオカティーが繋ぐ“体験”


さて、今回のDREAMSCAPE#3レポートで最後にご紹介するのは、npckcさんが制作された『Day Day Neon Tea』。近未来を舞台に、ロボットやアンドロイドにタピオカティーを提供するという、これまたユニークなコンセプトのSFノベルゲームです。試遊時間は約5分と短めでしたが、その短い時間の中に、忘れられない強烈な「体験」が凝縮されていました。
ゲームを開始すると、プレイヤーは「ロボット規制委員会」のスタッフロボットから、まるで心理テストのような質問をいくつか投げかけられます。それに答えていく形で物語は進むのですが…しばらくすると、そのスタッフロボットが「ちょっと席を外します」と言って画面からいなくなってしまうのです。ここで「おや?」と思うわけですが、本当の驚きはその先に待っていました。
実はこのゲーム、試遊台のテーブルの上に、一枚のパンフレットが置かれていたんです。何気なくそれを手に取り裏返してみると、そこには手書き風の文字で「委員会を信用するな!!もしスタッフが離れて画面がスクリーンセーバーになったら、画面の左上をタップしろ!読み終わったらまた表に返すんだ!」という衝撃的なメッセージが…。言われるがままに画面の左上をタップすると、それまでとは全く異なる、隠された画面が現れ、物語は予想もしない方向へと転がり始めます。まさに、ゲームの世界と現実が交錯する「第四の壁」を打ち破る演出。この仕掛けには「なるほど」と感心しました。

問題のパンフレットは画像の右側にあります。
正直なところ、この『Day Day Neon Tea』の試遊で体験した内容は、そのままPCやコンソルゲームの完成形として想像するのは少し難しいかもしれません。それくらい、この「DREAMSCAPE#3」というイベントの、あの場所、あの瞬間だからこそ最大限に輝く、極めて実験的でコンセプチュアルな作品だったと言えるでしょう。
しかし、だからこそ、このゲーム体験は私の記憶に強く刻まれました。試遊後、制作者さんが他のプレイヤーの方々と楽しそうにゲームの感想を語り合っている姿を拝見して、ふと思ったんです。もしかしたら、このゲームの本当の目的は、完成された物語を一方的に提供することだけではなく、このイベントという場で、ゲームというメディアを通して、人と人とが繋がり、驚きや楽しさを共有する、その「体験」そのものをデザインすることにあったのではないか、と。
npckcさんは過去にも多数の個性的な作品をリリースされており、そのどれもが既存のジャンルや枠組みにとらわれない自由な発想で作られています。今回の『Day Day Neon Tea』もまた、ノベルゲームという形式を借りながらも、その実態は「体験型アート」に近い何かだったのかもしれません。もし「ノベルゲームオンリーのイベントだから」という理由でDREAMSCAPE#3への参加を見送った方がいるとしたら、こんなにも刺激的で、固定観念を揺さぶるような作品がそこにはあったのだということを、ぜひ知ってほしいと思います。

DREAMSCAPEで受け取った、物語の“バトン”

「ザ・展示会」的な感じでした。
さて、三つの個性的な「読む」ゲームたちをご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。宅飲みの夜の他愛ない会話の中に潜む人間関係の機微を描いた『今日こそは_酔い潰れない_絶対に!』。日常に潜むルールと監視の恐怖を描いた『柘榴団地』。そして、第四の壁を越えて現実と虚構を繋いだ『Day Day Neon Tea』。
これらの作品に共通して感じたのは、どれもが単に「面白い物語」であるだけでなく、プレイヤーに何かを問いかけ、考えさせ、そして誰かとその体験を共有したくなるような「余白」や「熱量」を持っていたということでした。特に「DREAMSCAPE」という、ノベルゲームだけに特化したイベントだからこそ、作り手の方々も、より深く、よりパーソナルなテーマや実験的な表現に挑戦しやすかったのかもしれません。
会場は、大きな歓声や派手な演出こそありませんでしたが、一つ一つのブースで、開発者の方々が自らの作品に込めた想いを熱心に語り、プレイヤーは真剣な眼差しでその物語世界に没入している…そんな、静かで、しかし確かな情熱に満ちた空間でした。それは、物語というものの持つ根源的な力を再認識させてくれるような、素晴らしい光景だったと言えるでしょう。
今回のDREAMSCAPE#3は、私にとって、改めて「物語とは何か」「ゲームで物語を語ることの可能性とは何か」を深く考えるきっかけを与えてくれました。そして、そこで出会った素晴らしい作品たちと、それらを生み出したクリエイターの方々から、確かに熱い“バトン”を受け取ったような気がしています。このバトンを、今度は私自身のゲーム作りへと繋げていかなければ…そんな新たな決意を胸に、今回のレポートの筆を置きたいと思います。