「いや、僕Webtoonよりはマンガ派なんで。」

こういう言葉を耳にしたことがある。

時は大学時代。友達との話し合いでWebtoonの話題が出てしまい、10年以上Webtoonを読んできたオタクの自分には我慢できず、おすすめの作品リストを語り出そうとするところだった。

しかし突然宣言された「Webtoonよりマンガ派」というアイデンティティに、ぼうっとしてきた私は友達に問い直す。

「じゃ、お前が知ってるWebtoonってなんだよ。」

今は2024年、Webtoonが国境を越えて爆発的な人気を博している時代。その中にはグローバル化の波に乗って、韓国・日本・中国・アメリカ各地で読まれている人気作品もたくさんある。その作品の共通点と言えば…

LINEマンガの総合ランキングに入ると見れる作品たち。なんとなく既視感を感じる

「転生」「回帰」「復讐」…思い出してほしい。皆さんが知っているWebtoonの中で、この単語を含めない作品は果してどれぐらいあるだろうか。

友達と話した後、私は家に戻ってすぐネットに「Webtoonとマンガの違い」を検索してみた。

サイトによって各々の違いはあるだろうけど、大体言ってるのは同じ。

①スマホとタブレットに最適した、縦読みの方式
②表現の違い(カラー、コマ切りのスタイルなど)
③読者の違い(サクッと読めるので、読者がライト)

時は遡って16年前。小学校の4年生になった私は、たまに親戚の家を訪れていた。遊びに行くといとこの兄がいて、いつもパソコンでゲームか、ネットサーフィンをやっている。

そんな中である日、兄は珍しくマンガを読んでいた。もちろんパソコンの画面越しで。「マンガは本で読むのでは?」と思っていた私はふと気になってしまい、あのマンガのタイトルを聞くことになる。どこでも見たことのない、ちょっと不気味な顔をしていたキャラをみて、兄はクスクスと笑いながら答えた。

2006年から2020年まで連載した超人気作品『ココロの声』。見ての通り、キャラの顔が特徴的である

それが韓国でWebtoonの全盛期を告げた、歴史に名を残す作品になるとは私は夢にも知らなかった。でも安心してもいい。ここでWebtoonの成功神話を語り出すつもりは全くないのだ。

私がここで確かめておきたいのは、「スマホのない時代、どうやってWebtoonって縦読みになったんだろう」という、極めて単純な疑問である。

私がWebtoonに触れ始めていた2000年代から、すでにWebtoonは漫画に厳しい韓国社会に浸透しつつあった。まだ市場の規模は小さいけれども、絶え間なくビュー数を増やしていた人気作品のおかげで、縦読みというWebtoonの特徴に異議を申立てるユーザーは少なかったのである。

では、これから当時の作品を(絵だけもいいので)ざっくり見てみよう。

2006年から2007年度に連載を始めた人気作品。韓国語でしか読めないが、無料で閲覧できるので第1話だけざっくり見通してほしい

どうだろう。ほぼ20年前の作品とはいえ、今とはだいぶ違う様子をしているのでは。以上の作品は別に人気のない作品を、自分で適当に拾ってきたわけではない。すべてが当時のNAVER WEBTOON(日本のLINEマンガ)でTop10を占めていた、超絶人気作品だったのである。

ちょっとダサいとか、普通だとかといった個人的な感想は後にして、自分が見て気になったところを言わせていただきたい。

「あれ、これってマンガとたいして違ってないよね?」

そう。コマとコマを分けて横に読むマンガ。

マンガのページをそのまま縦に並べるだけで、当時のWebtoonの形になってしまう。では再び「Webtoonとマンガの違い」その①に戻ろう。Webtoonは果して、「縦読み」なのか?

Webtoonが今の形になるまでの話はこれからゆっくりしていきたい。なので、この時点で作品を一つだけ紹介しよう。それは上でも説明した歴史的な作品『ココロの声』…ではなくて、同じ時代にまた別の人気を博していた当代最高のアクション系『強いやつ쎈놈』(2008)のことである。

NAVER WEBTOON『強いやつ』の元リンク(https://comic.naver.com/webtoon/list?titleId=720127)のより引用。

残念ながらこの作品の日本語版はない。読みたいならNAVER WEBTOONにあるこの作品を、自分で翻訳して読むしかないのだ。 しかしここでは、韓国語が読めないWebtoon読者のために簡単に説明しておこう。『強いやつ』は一文章で言うと、「ロマンスもラブコメもない、ひたすら最強になりたい男の汗臭いケンカ話し」なのである。

ガン・テヨブ「ダメだ、ダメ!俺が歩む道は修羅の道!俺が尊敬してやまない歴史、神話の強者たちは皆ソローの道を歩んでいた!強者の道に女は必要不十分!俺たちは無敵のソロー部隊だ!」(筆者訳)
-『強いやつ』第4話

もちろん、カップルもちゃんといる。ただ、いないと思っても良いほど、その比重があまりにもないだけだ。 主人公ガン・テヨブは、中学時代からある地域を鎮めるほどケンカに強い不良だ。しかし彼のモチベはあくまで、今より『強いやつ』になること。ケンカに強いからって一般の学生を脅かすとか、物を奪ったりもしない。ひたすら強いやつとのケンカにしか興味がない、バカ男なのである。

ガン・テヨブ「(今まで勝った相手を思い出しながら)あいつらは今更考えてみると、どう勝てたのかすら怪しいほど強敵だったな…血と汗を流しながら死ぬ覚悟で追いかけ、ようやく倒したバケモノめ…こいつらとの闘いで分かったのはただ一つ。敗北。あの泥沼からなんとなく這い上がれた時こそ、俺は強くなれた。悪いけど、この俺にはサイヤ人の血が流れているんだ。本当にありがとう。心から感謝しているよ。おかげさまで俺はもっと強くなるんだ。」(筆者訳)
-『強いやつ』第13話

そういう彼が新しい学校に転校したことで、『強いやつ』の物語は始まる。もちろん遠く未来からの転生とか、帰還の要素があるわけでもない。ましてはSSS級のチートもないので、ガン・テヨブはたまには負けたり、たまには卑怯になったりもしつつ、少しながら人間として成長していく。

ここまで聞いた人はこう思っているかもしれない。

「普通のマンガの話じゃん。なに偉そうにいってるの?」

そう。説明だけ聞くとただのアクション系不良マンガにすぎないようなこの作品が、どこをみてそんなに特別だというのか。

ここで読者の皆さんに伝えたいのは、『強いやつ』は単なるアクションマンガではなかったということである。ほぼ初めてだと言ってもいいくらい、縦読みのシステムを理解した上で破壊的な演出を加えた、正真正銘の「Webtoon作品」なのである。

NAVER WEBTOONで無料公開している『強いやつ』第6話より引用。

当時としては先駆的だった『強いやつ』について、パク先生は以下のように述べている。

「何にせよ一番目に開いてみたマンガが『ドラゴンボール』だった世代なんで。もちろんそのほかにある色んなジャンルも好きなんですけど、私がデビューしてた時期って、ひときわアクションがWebtoonにはなかったんですね。今もそうですけど当時はデビューの争いが激しくて、それなら自分だけの競争力を生かしてアクションをやってみたかったんですね。これならいけると思ってました。」(筆者訳)

ここでパク先生は「アクション系ならストーリーはどうでもいいと思っていた」と、自嘲的なコメントも添えているが、むしろ『強いやつ』のプロットは作品の強みだといってもいいくらい、今まで好評されている。

ガン・テヨブ「あいつは弱い。兄貴も強がってるだけで実は弱い。まるで俺のオヤジみたいに。けど、俺はそれよりよっぽど弱い。だから少しは強くならないと、そう思った。」 (筆者訳)-『強いやつ』第48話

チェ・ガンドゥ「友達が欲しかった。冗談ができる、たまにはケンカもする、気楽に一緒に過ごせるような…危ないときは背中を任せるような…俺より弱い友達が欲しかったんだ。」(筆者訳) -『強いやつ』外伝編の第13話

先生「(ガン・テヨブを思い出しながら)自分の夢をそんなにすっきりいえる奴は初めてでした。お父さん、もしかして確かな夢をみている少年の笑顔を見たことがありますか?私みたいな老爺も若返るような…そんな清々しい笑顔ですよ。」(筆者訳) -『強いやつ』第37話

単に戦い合って、もっと強いやつになりたい。これ以上に語ることもない、単純なキャラクターのモチベーションは意外と深いメッセージ性とプロットの重さに向き合っている。この作品が描いている世界には、ひたすら学校で暴力を振るという内容を超えて、周りに認められたい少年の熱量、将来に対する悩み、成長の痛みまでも含まれていた。

もちろん、『強いやつ』の登場でもまだ読み方の疑問は解消されていない。Webtoonが今の形になるまで、あと数歩の変化が求められる。今回はその一歩として『強いやつ』が堂々と生きていた時代を、この文章を読んでいる読者の心に届けられたらと、私は思っている。

日本語版のないWebtoonを読むのは大変だけど、ぜひ韓国語ができるWebtoonビギナーにおすすめしたいこの作品は…

ガン・テヨブ「リーダーか、ボスか、そんな照れ臭い言葉で俺を呼ぶな。生まれから群れるのは苦手だし、誰の上に立つのはよりイヤだ。男はケンカしたらもう友達なんだよ。だからこれから俺を呼ぶときはただ…『強いやつ』でいいよ。さっぱりにな。」(筆者訳) -『強いやつ』第6話

パク ジュヒョン

1998年生まれ、韓国出身。今年から日本のアニメスタジオで働いている。15年以上Webtoonを読み続け、先読みの課金に10万円以上を費やしたことに気付く。現在は課金で費やした分をビュー数で稼ぎたい気持ちでWebtoonの記事を書いている。