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この記事は、前の記事「大Webtoon時代を揺るがした異端児のマンガ」HELLPER論前編-Road to Webtoon#4のつづきを書いています。

今この文章を読んでいる人の中で、韓国のWebtoonを原文で読んでいる人はいないだろうか。

もしいるとすれば、コメント欄に出てくる「ある特徴」に気づいたかもしれない。

(大体人気作品でよく見られがちだが)どのジャンル、どの作品を読んでいても下のコメントは必ず出てくる。

「今日の連載分少なくない?」

筆者はいつもこのコメントに疑問を抱いていた。

不思議なことに、彼らがいう「連載分」は実質的なコマの数とは関係がない。

むしろ普段より多いコマ数であるにもかかわらず、「なんか今日は少ないんだよね~」という文句のコメントが常に出てくる。あくまでも個人差だと理解すればいいと思いつつも、筆者はそこに「読者と作者の間で、どうしても縮められない間隔」が存在しているのではないかと、疑ってしまう。

必ずとは言わなくとも、ものを作る側とものを消費する(読む)側には乖離が生じやすい。単純に作者の意図が読者に届かないということ以外にも、こうして分量の認識が違うというようなことすら、頻繁に生じてくる。
そして、今回の話はこれにかなり近いと筆者は思っている。

#4に続き、シーズンを分けて連載を続けてきた『HELLPER』は絵柄を含め、色々な変化を試みていた。シーズン②が急に18禁になったことも、その変化の一環として受け取ることもできよう。しかし、その変化はファンの間で両極的な反応を生み出し、コメント欄はどんどん賛否両論の場と化していった。

読者と作者の間で生まれた些細なズレが、果たしてどういう結果をもたらしたのか。今日はその話を取り上げていきたい。

どんどん高まる不満の声:アンチを笑いにする作家

今更なのかもしれないが、ここでHELLPERのシーズンについて補足しておこう。

13年間の連載歴を誇るHELLPERは、2011年度から4年間続いたシーズン①「MADMAN」連載を終えた後、2016年から約8年間シーズン②「KILLBEROS」を連載した。同じ作品のことではあるが、シーズン①とシーズン②の評価にだいぶ差があるとこだけは注目してもらいたい。

この連載の前編で説明した内容は、当然ながら好評が続いていたシーズン①「MADMAN」に限られた話である。

シーズン②「KILLBEROS」も連載当初は評判だったが、2年後の2018年からどんどん作品の問題点を指摘するアンチコメントが増えていった。(18禁にもかかわらず)過激な表現、カメオキャラとブランドの広告が多すぎるという問題、時事問題を取り扱いすぎるという問題など、シーズン①で流入されたファンの間で指摘の声がしばしばあげられたのである。

コメントを読んでいなかったのは、コミュニケーションをしたくないからではなく、
コメントに影響されて自分が意図したとおりのマンガをお見せできないのが心配なだけでした。(著者訳)

-SAKK、休載の告知(20.10.20)

当時のことに対してSAKKは終始一貫、自らの企画意図を保ちたいという理由で、コメントを読んでいなかったと述べている。しかしそれはあくまでも表面上の話で、漫画の中ではアンチコメントを言ってくるキャラをボコボコにするシーンも描いていた。少し幼い対応かもしれないが、そうすることで作家は遠回しにアンチの意見を否定してきたと捉えられる。

当然ながら、その作家の行動をひたすら楽しく見ていられるアンチは恐らく多くはいないだろう。意見の反映どころか、漫画の中で笑いものにされていることに激怒したアンチ読者一部は、どんどん反発の声をあげていった。

Webtoon界を揺るがした247話:場外乱闘のはじまり

『HELLPER』シーズン②「KILLBEROS」が女性嫌悪的な暴力シーンを描いていると訴える『女性新聞』側。
#Webtoon内の_女性嫌悪を_やめよう のタグをつけている。

『HELLPER』のファンコミュニティーであるDcinsideのHELLPERマイナーギャラリーで、ある読者は「表現の自由を通して犯罪の描写が当為性を認められるには、犯罪の残酷性を知らせるべきだと思っている。今の作者が何を言いたいのかよくわからない」と鋭く批判した。
女性と社会的弱者に対する犯罪の描写や性的な表現などが許容範囲を超えたという指摘として解釈できる。
こういう疑惑が燎原の火の如く燃え広がったのは、今月の8日『HELLPER』の先読みで247話が公開されてからだ。
当時の連載分には老女である「ピバダ」が髪の毛が全部抜けた上に裸で拘束され、薬物が注射される拷問の描写が描かれていた。

-「拘束拷問」のシーン、無料の連載分には削除されるか…公共の敵となった『HELLPER』. イートゥデー. 2020年9月14日

結局、問題はシーズン②の247話が公開された時点で爆発した。
HELLPERの読者なら誰しもショックを受けたその内容によって、既存のアンチはもちろん、作品と作家を擁護していたファンの読者ですら背を向けたのである。

247話のコメント欄。
「精神に問題がありそうだ」「薬でもやってるのか」との、批判のコメントが寄せられている。

ここで問題の内容を知らない人のために説明しておく。上記の記事にも説明している通り「おばあちゃんのキャラを薬物で拷問する」というシーンが、247話には確かに描かれていた。

韓国社会がどれだけ老人を大事に思うか、という話はさておき、そのシーンの主人公である「ピバダ」が、作品全体を通して一番人気のあったキャラだったことに注目してもらいたい。つまり、10年以上連載を続けてきて、今まで一番人気だったメインキャラが急にリタイア、しかもあり得ない形でつぶされたことに読者たちは怒りを示したのだ。この事件の始まりは単にそういう騒ぎに過ぎなかったと、筆者は主張する。

しかし、真の問題はその次に起きた。

作家の蛮行を見るに見かねたHELLPERマイナーギャラリーの会員たちが自らツイッターとマスコミにHELLPERの女性嫌悪要素を共有して公論化させた事態。 DCインサイドの会員たちは普段の性向と違ってフェミニストたちを応援し、むしろ積極的に資料を提供するなど支援に乗り出した。(著者訳)
‐当時事件に対して、ギャラリーのユーザーが作成した説明文

247話が公開されて間もなく、今まで作品に問題提議をしてきた一部の勢力「HELLPERマイナーギャラリー」ユーザーたちによる公論化が始まったのだ。

今まで指摘してきた作品の要素を「作者の蛮行」として命名したユーザーたちが、問題の247話で注目が集まったことをきっかけに、作者が女性嫌悪を描いているとフェミニズム団体に訴えかけたのである。彼らは247話の老人拷問のシーンを含め、作品の中で描かれている性的描写、レイプの描写などを資料としてまとめ、公論化のためにネット上で資料を広めていった。

ここで注目してほしいのは彼らの性向を語っている一文章。自ら述べているように、彼らは普段フェミニズムを支持しないにもかかわらず、「作品に変化を求めるためにフェミニズム団体と連帯した」と公言※している。

彼らの意図がどうであれ、その結果は大きな反響を及ぼしたことに違いない。いわゆる場外乱闘の始まりなのである。

性差別・フェミニズムのテーマをよく取り扱うメディア『女性新聞』では、「18禁だからといって性搾取・レイプなどの表現が許されるのか」と厳しい目線の記事を発表し、その指摘に賛同するSNS上のフェミニズム勢力も #Webtoon内の_女性嫌悪を_やめよう などのハッシュタグをつけて議論を広めていった。

炎上が深まるにつれて、批判の声は連載先のNAVER WEBTOONに辿り着く。
事件の深刻さに気付いたNAVER WEBTOON側は「激しい表現に関しては編集の段階で作家に修正の意見を伝えている」といいつつ、「これからガイドラインをもっと繊細に補っていきたい」という旨を発表した。

運営側まで広まった炎上:検閲強化につながる

上記のNAVER WEBTOON側の発言はだいぶ重い発言に違いなかった。

以前にももちろん、起こった事件に対応してNAVER WEBTOONが「ガイドラインを強化する」と公言したことは何度もあったが、実際検閲が著しく強化・適用されたケースはこれが初めてだった。

2014年に連載を始め、女性嫌悪を描いていると国民請願にまでなる話題になった『復学王』。2015年度に連載を始め、流血表現で連載先を移した『釣り神功』すら、HELLPERほどの影響を与えることはなかった。


すなわち、2020年度を過ぎて行われたNAVER WEBTOONの検閲の場合は前後の関係を明らかにする必要がある。検閲が強化された時点はWebtoon『HELLPER』で発生した炎上事件がマスコミに取り上げられてからだ。(著者訳)

-ナムウィキ、「NAVER検閲論欄」ページの説明より引用

以前の事件とは違ってHELLPERの炎上は、「モザイク検閲」の導入という明らかな変化をもたらした。
従来まで「ある作品・あるシーンが問題視される→削除・修正される」という流れだったのが、「問題になりそうなシーンにあらかじめモザイクをかける」という姿勢に変わったのだ。もちろん、過去には問題視されなかったにもかかわらず後になってモザイクがかけられるケースもある。

したがって、この一連の出来事をめぐって再び賛否両論が巻き起こったのは、ある意味当然の成り行きだったかもしれない。特にこの問題を水面上に引き上げたHELLPERマイナーギャラリーに対しては、厳しい批判の声が寄せられた。彼らの公論化についても、そもそもフェミニズムを支持しないコミュニティーから始まったため、「ひたすら炎上のためにフェミニズム運動を利用しただけではないか」という指摘も飛びかった。

いずれにせよ、HELLPERは上記の事件を通して「Webtoon史上最大の検閲をもたらした作品」と呼ばれることになる。そして、この作品から始まった検閲への甲論乙駁はいまだにも韓国におけるWebtoonの形を定めているわけだ。

筆者においてHELLPERは、学生時代はもちろん成人になってからも共に過ごしてきた作品の一つである。何なら正式連載を始める前からその存在に気づいていた作品でもあるので、以上のような受け止められ方は、ほとんど「不名誉」に近いとまで考えている。

マイナーギャラリーのユーザーたちの、好きな作品が望まない方向に変化していくという悲しみは理解できる。しかし、炎上を武器にしてまで読者の物差しを作者に突き付けることは、どうしても理解しがたいと思う。しかも「普段の考え方とは違う」とまで公言しているフェミニズム運動を、ひたすら炎上を巻き起こすための手段として利用したことは、ますます自らの正当性を疑わせてしまう仕業だった。

結局、彼らが指摘する「作者の蛮行」とは何だったのか。そしてそこまで批判の声をあげてきたのは何のためだったのか。つい2か月前(2024年8月)にシーズン②の連載を終えたHELLPERを見ていると、次回作の期待よりも今後の心配が先にたってしまう。いつになったらシーズン③を見ることができるだろう。何ならこのままシリーズが終わってしまうのではないかという不安の日々が続いている。そんな筆者がそれでもおすすめしたい、この作品は…

人生はVぇリー。

-ジャン・グァンナム

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