2024/10/11

こんにちは。SKOOTA編集部所属のイ・ハナと申します。

先週、弊社がパブリッシャーとして参加していた東京ゲームショウ2024に私も訪問しました。東京ゲームショウ自体が初めてだったので、道を迷うことすらありましたが、なんとなく生還して来れたことに心から感謝しております。

ビジネスデイの26、27日には多くのブースをめぐりながら普段触れていなかった海外のインディゲームを思う存分プレイできました。不幸にも日本語・英語どっちも苦手な私は、ゲームをやりながらあまり頭を使いたくはなかったため、お友達の太ももうさぎさんを誘って一番分かりやすい韓国のインディーブースをメインにめぐりまわっていました。ゆえにプレイしながらも「果たしてこれは外国人のユーザーにもこの意味が届いているのかな?」という懸念が働き、自分も日本語が理解しきれていないことに気づく途端、この記事を書こうと心から決めたのでございます。

正直言語とはあまり関係のない、ひたすらググるだけで分かるような情報も普通に含まれておりますが、別にいいのではないでしょうかと。現場の生々しい声とゲームプレイの感想を込めたこの一枚のレポートを、SKOOTA編集部からお届けいたします。

可愛い雰囲気のゲームでこのレベルのミームを?― MONOWAVE

最初は隣の隣のブースにいたBBBさんの『MONOWAVE』。(ゲーム名で出店されていた)ブース番号は10-W03。

ブース運営中にずっと気になっていたブースで、常に客が込み合っている印象でございました。

ゲームの初印象はとにかく可愛い。キャラも可愛いし、雰囲気も可愛いのです。

子供時代にスケッチブックで描いたような世界の上を、割と単純な形をしている生命体が動き回っております。背景も暗いので、ずっと眺めていると深海のアクアリウムを見ているような気にもなりますね。試遊はおそらく12分までだったのですが、このふわふわしたアクアリウムは30分も見ていられる、と心の中で思っております。

ブースで撮った試遊の様子。
ブースで撮った試遊の様子。

ゲーム形式は極めてシンプル。感情のよって違う能力を使える主人公は、目の前のバリケードを乗り越えて次のステージへ向かいます。パズル要素もあり、マップ上にはスコアを得られるアイテムとかも置いてあるのでチャレンジ性も感じます。意外と難しかったのです。

プレイが終わったらグッズもいただけたのでさっそく確認。

「幸せ」「悲しみ」「怒り」「不安」が描かれているステッカーももちろん目を引きますが、今回注目したのはこちら。上に重ねている「タノシイ」「カナシイ」「ビックリ」「ムカツク」のステッカーです。

試遊が終わった後、渡されたグッズの一部。

これは恐らく元ネタを知っていないと、一見意味不明なものに見えるかもしれません。これは海外で一時期話題になった「Pre-Cracked egg」というミームからきたことをここであらかじめ紹介しておきましょう。日本語で訳すと「事前に皮をむいたたまご」という意味になります。

原文とみなされているRedditのキャプチャー。 以下より引用。(https://www.reddit.com/r/mildlyinteresting/comments/9txwbj/this_precracked_egg_at_the_supermarket/

「Pre-Cracked egg」ミームをパロディしたNONGSHIMのX投稿。

2018年の頃、アメリカ発のこのイメージは韓国でも話題になりました。一個一個の要素が個性的で頭に残りやすいこのミームは、特に右下にある文字の「I enjoy」が「たのしい」と翻訳されたことで注目されました。ゆえにこの「Pre-Cracked egg」ミームは、この赤丸の吹き出しと「たのしい」という文字の組み合わせで色々と引用されていったわけです。

では、なぜ今回この話題を取り上げているのかというと、実はうちのブースでも使っていたからなのです。

TGS2024限定で作ったコピー本の写真。
SNSにあげた告知用の画像。

これは『ネゴラブ』という、弊社で制作中のインディゲームのタイトルですが、今回試遊をしていただいた方々に渡す「コピー本」を作っておりました。何気なくシュールな感じを出しかったのでレインボーの画像とともに100部を用意しておりました…が、結局5枚しか配れず東京ゲームショウは終了。

それと比べて、MONOWAVEさんの「タノシイ」ステッカーはだいぶ人気だったので羨ましかったです。

なぜか口が悪いサイバーの世界観― Black Guardian

同じくインディーブースを回っている最中、ある一枚のポスターに目線を惹かれたのです。いい感じで輝いているネオンサイン。路上の隙間に見捨てられたような自販機の横、コーヒーとタバコを持っている少女が空を眺めています。

09-W20ブースでBlack Guardianさんの『Vending Machine Hero』に出会った私は、そのままスムーズに試遊の行列へ混じりました。

ブースにはゲームキャラのフィギュアもいらっしゃいました。制作者さんがねんどろいどで作ったらしいです。

やってみてからの感想は…操作がめっちゃくちゃ難しい。

ゲームパッドのスティックをどれも使っていて、一方はキャラの操作に、もう一方はエイムに使う仕組みになっておりました。素人にはかなり厳しい操作ですね。(マウスとキーボードだったらやりやすくなるのでは…?と思いつつ) 特にステージの後半になると無数の敵が追い込んでくるため、私はひたすら逃げながらスキルを使うタイミングを見計らうしかありませんでした。

『Vending Machine Hero』Steamページより引用。(https://store.steampowered.com/app/3225850/Vending_Machine_Hero/
『Vending Machine Hero』Steamページより引用。(https://store.steampowered.com/app/3225850/Vending_Machine_Hero/

厳しい難易度とは違って世界観とキャラデザはすごく好みな印象。

政府の下で働いているにもかかわらず、自販機の中で住み込んでいるという訳の分からない設定も、しっかりとサブカルの味をだしている気がして個人的に好みでした。それにどの飲み物を選ぶかによって使えるスキルが違うというところも面白かったですね。

個人的にコーラーを選ぶとシロクマさんが出てきて、バットを振るうスキルがイチオシでした。

それと思ったのは、主人公のナビさんは口が悪いということ。

Netflixで韓国ドラマを見ると、すがすがと悪口が出てくる場面をたまに見かけますが、今回そのデジャヴを感じました。そういうことを見ていていつも思うのは、やはり悪口のニュアンスって字幕だけだと伝わりにくいのでは…ということ。いつかAIが発達して、こういう微妙なニュアンスさえ翻訳してくれると嬉しいですね。

このバグ、狙ってます?―Izakaya Conversare

今回TGSで一番記憶に残っているブースを選ぶってなると、断然このブースでしょう。

09-W76ブースにあった、Izakaya Conversareの『イザコザ』を紹介いたします。

高校時代にプレイしたことがあるBlizzardの『ハースストーン』に似ていると聞き、さりげなく試遊をさせていただきました。まずここから面白いポイントが一点。

それは韓国のインディーブースにも関わらず、英語でしかプレイできないということ。日本語でも、韓国語でもプレイができないという説明を聞いた私は一瞬試遊を辞めようかと戸惑いましたが、しっかり説明をしてくれるというお話だったのでなんとなくプレイを開始。

ハースストーンと似ているという説明から分かるように、このゲームのジャンルは1対1のTCGでした。しかもブースの人と1対1になるので、10分くらいゲームをやりながらじっくり会話ができて楽しかったです。

しかしここで面白いポイントがもう一点。TGSのネット回線が良くないせいで、訳の分からないバグが生じまくっていたのです。

味方のカードが急に敵カードになったり、スキルを使うとカードが地面に隠れて使えなくなったり…

だいぶめっちゃくちゃでしたが開発者さんの説明が面白くて、楽しくプレイができました。むしろバグが生じていることをエンタメに昇華させていたので、周りで見ている人たちもノリノリでいい感じでした。普通、イベントでバグが発見されてしまうと修正に熱をあげることが一般的かなと思いますが…これはだいぶ斬新でしたね。

もちろんすべてのユーザーにバグを納得してもらうことは大変でしょう。それが言語的に説明しづらい海外のユーザーならもっとそうなるはずです。

このブースを紹介していた韓国の配信者さんの配信を見ても、日本語の対応に困っている様子をうかがえました。

「みなさん、ちゃんとバグを楽しんでいただけたでしょうか…」

いまだに時々思い出すゲームですね。

真っ正面から勝負だ!爆破物処理班

今回、TGSで一番注目されたといってもいいブースの一つですね。戦争時代、地雷を踏んでしまった主人公が地雷を解除するというゲームでした。爆発物処理班というチームの『PIA』、ブースはセレクトインディーのA08。

STOVEの説明を見る限り、一つのチームが3週間で作ったらしいですね。その割にはだいぶクォリティーが高い気がしますが。12月にSteamにも無料版・有料版を公開する予定らしいので、何らかのアップグレードが加わったのではないかと。

ちなみにですが、「このゲームに登場する地雷は架空の地雷であり,実際の地雷は圧力を受けるとすぐに爆発します」というメッセージは初めて読んでかなりゾッとしました。

ゲームプレイ画像。STOVEページより引用。 (https://store.onstove.com/ko/games/2799
ゲームプレイ画像。STOVEページより引用。 (https://store.onstove.com/ko/games/2799

実際プレイをやってみて感じたのは、良い意味での「不便さ」が仕掛けられていてすごい。

地雷を踏みながら解体をしなければならないので、暗闇の中で体がしゃがんだままいつ爆発するか分からない緊迫感を抱きつつ、必死にボタンとマウスを押しまくってしまうのです。

どんどん押さなければならないボタンが増えていくことで、最初押していたボタンを忘れてしまう途端…GAME OVER。

「どうすればより簡単に操作ができるのか」を工夫しているほかのゲームとは違って、「どうすれば地雷を解除させるという、普段あり得ないことをゲームとして体験してもらえるのか」への工夫が反映されていて、すごく面白かったです。

特に興味深いことは、ハングルのロゴをそのまま出していること。単純に「ロゴデザインを変えるのが大変だったのでしょうか」と思っておりましたが、朝鮮戦争時代の実際の史料(※)を引用していることを含め、むしろ韓国のゲームであることを強く主張している気がしておりました。

※ゲームの冒頭に『韓国戦争手帳-ある学徒兵の参戦日記』(2012)の本文を引用。

韓国のブースだとはいえ、ビジュアルとロゴだけでは分からないところも多かったので『PIA』のケースはかなり特殊なものではないかと。

そういうところがむしろ海外ユーザーには斬新なものとして見えていたのかもしれないですね。…とすると、これはむしろ「韓国人の私には分からない、韓国のインディーゲームらしさ」になりえるのでは…?とにかく、ローカライズを押し付ける海外ブースの中でも、『PIA』はだいぶ目立つゲームだったなと改めて思いました。