初めまして。SKOOTA編集部のイ・ハナと申します。いやはや、今年の京都の夏は本当に暑かったですね。後輩のモブが素晴らしいレポートを届けてくれた【前編】に続き、この【後編】は、わたくしイ・ハナが担当させていただく運びとなりました。 モブくんが海外のインディーゲームに注目した一方で、私はやはり、自身のルーツである「韓国のインディーゲーム」のブースに、自然と足が向かっておりました。特に今回は、韓国コンテンツ振興院である「KOCCA」が大規模なブースを構え、多くの韓国インディーゲームが日本のゲーマーの方々に紹介されていたのです。 かつて韓国のイベントで出会った作品が、こうして日本の大きな舞台で注目を浴びている光景は、個人的にも胸が熱くなるもでした。さて、そんな思い入れも交えつつ、私がBitSummitで出会った、個性が際立つ二つの「韓国インディーゲーム」について、ご紹介していきたいと思います。 破滅のオタク:ローカライズの難しさにも負けないゲームの魅力 まずご紹介いたしますのは、チーム「キウィサウルス」さんが手掛けるアドベンチャービジュアルノベル、『破滅のオタク』です。実はこちらのゲーム、以前私が韓国のイベントレポートで取り上げたこともあるのですが、今回KOCCAブースの一員として日本に初上陸し、ブースは常にたくさんの方で賑わっていて、一人のファンとして大変嬉しく思っておりました。 ご存じない方のために改めてご説明しますと、このゲーム、「ネットゲームのオタクである主人公が、限定グッズの共同購入で集めた500万ウォンを使い込んでしまう」というとんでもない導入から始まる、破滅的な物語です。そのストーリーもさることながら、本作の真の魅力は、その「ゾッとするほどのリアリズム」にあると私は考えております。オタク特有の言い回し、コミュニティの空気感、自虐的な思考回路…。知っている方ほどニヤリとし、そして同時に「これは自分のことなのでは…?」と胸が痛くなるような、絶妙なラインを突いてくるのです。 今回、日本の会場で改めて本作に触れてみて「日本語でもプレイできる」ということに驚きと嬉しさを覚えた私でしたが、一点だけ、少しながら懸念が頭をよぎりました。それは、「このゲームの本当の面白さ、日本の皆様にどこまで伝わっているのだろうか?」ということです。このゲームの面白さは、韓国のネットミームやオタク文化への深い理解があってこそ、その真価が120%発揮されるといっても過言ではございません。もちろん、日本語へのローカライズも丁寧に行われておりましたが、文化の壁を超えなければ伝わらない、言葉の裏にある微妙なニュアンスはどうしても伝えにくいところだと感じました。 『破滅のオタク』というタイトルは、主人公の「ジンダ」を指す言葉ですが、もしかしたら、このゲームのディープなネタを一つ一つ理解し、「面白い!」と感じてしまう私たちプレイヤー自身もまた、一般の方から見れば「破滅」への道を歩んでいるのかもしれないと思いつつ…。そんな、自虐的で少し背筋の寒くなるような共感が、このゲームの本当の恐ろしさであり、魅力なのだと思うのです。 これからもローカライズの道は、きっと茨の道でしょう。それでも、この唯一無二のアートスタイル、破滅的なのにどこか愛おしさを感じてしまうストーリーと世界観、そして誰よりもオタクを理解している開発者の皆様の情熱が、日本を、そして全世界を魅了する日が来ることを、私は心から願っております。 Dimension Ascent:“ユーズマップ世代”が切り拓く、新たな次元への挑戦 続いてご紹介するのも、同じくKOCCAブースで出会った、2Dと3Dが融合したプラットフォーマーアドベンチャー『Dimension Ascent』です。視点を切り替えて次元を行き来する、というパズルアクションで、以前モブが紹介していた『LOVE ETERNAL』と通じる部分もあるかもしれませんね。 ゲームとしては、非常にバランス感覚に優れた優等生、という印象でした。ただ見ているだけでは進めない道を、視点を切り替えることで突破していく。この「ひらめき」の感覚がとても気持ちよく、難易度も「うーん…」と悩む時間と「これだ!」と試してみる時間のバランスが絶妙で、ストレスなく楽しむことができました。ストーリーが少し掴みづらいかも、という点はありましたが、それを補って余りある面白さが、このゲームにはあったと思っております。 しかし、私がこのゲームを取り上げたいと思った最大の理由は、ゲーム性そのものよりも、開発者の方のプロフィールにありました。ブースでお聞きした、「スタークラフトのユーズマップ制作者出身」という、短い一文。この記事を読んでいる日本の皆様に、この一文が持つ「意味」が、果たしてどれだけ伝わるでしょうか? 少しだけ、韓国のゲーム文化のお話をさせてください。90年代後半から2000年代にかけて、『スタークラフトStarCraft』は韓国で社会現象と呼ばれるほどの絶大な人気を誇りました。そして、その人気を支えた大きな要因の一つが、「ユーズマップ(Use Map Settings)」の存在です。これは、ユーザーがゲーム内の機能を使って、全く新しいルールのオリジナルマップを自由に作り、共有できるという、当時としてはかなり斬新な遊びの一環でした。つまり、ユーズマップ制作者とは、「ゲームの中で、新たなゲーム性を見出し、遊びを提供する人」「ユーザーを楽しませるためにコンテンツを生み出す、ユーザーの中の開発者」のような、特別な存在だったのです。 そんな、いわば「遊びの天才」が、今、インディーゲームという新たなフィールドで、ゼロからご自身の作品を創り上げている。この事実だけで、とてもワクワクしませんか? 既存のゲームの枠組みの中で新しい遊び方を発見してきたそのご経験が、「視点を変えることで新しい道を発見する」という『Dimension Ascent』のコンセプトに、見事に昇華されているように私には感じられました。 ゼロから始まったこの挑戦が、BitSummitという世界への扉をこじ開け、より多くのプレイヤーを魅了していく。そんな未来を、心から応援したくなりました。そんな開発者の方の「物語」ごと、ユーザーとして楽しめるな作品でございました。 国境を越えて、ゲームは“熱”を伝える さて、わたくしイ・ハナがBitSummitで出会った、二つの個性的な韓国作品をご紹介してまいりました。ローカライズの壁という大きな課題がありながらも、その奥にある「オタク」というカルチャーへの深い共感が魅力の『破滅のオタク』。そして、開発者の方のユニークな経歴が、ゲームシステムそのものに物語性を与えている『Dimension Ascent』。どちらの作品も、ただ「面白い」というだけでは語り尽くせない魅力に満ちていました。 今回のBitSummitは「国際性」そのものを肌で感じられる、素晴らしいイベントでした。モブが紹介してくれた海外のゲームも、私がご紹介した韓国のゲームも、作られた場所も言葉も、そして文化も異なります。ですが、その根底にある「面白いものを作りたい」という作り手の純粋な熱意と、「これはわかる」というプレイヤーの共感は、驚くほど似ているように感じました。 結局のところ、インディーゲームの面白さとは、完成された製品としてのクオリティだけではなく、そのゲームが「なぜ」「どのように」生まれたのかという物語や、作り手の「こだわり」や「情熱」に触れることにあるのかもしれません。BitSummitという場所は、そんなゲームが持つ「言葉を超えた力」を改めて実感させてくれる、最高の空間でした。 この熱気を胸に、私たちSKOOTAGAMESも、自分たちのゲームで誰かの心を動かせるよう、また明日から頑張っていこうと思います。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました! 今回のBitSummit、締めの一言 最後に、今回のイベントにおける感想を一言で表すと…
雨にも負けず!ゲームの街になった川越~ぶらり川越 GAME DIGGレポート【前編】
こんにちは、モブです。SKOOTAGAMESのネゴラブチームで、日々キーボードを叩いたり、たまにコーヒーを淹れたりしている者です。 先日、埼玉県の川越市で第一回目が開催されたオフラインゲームイベント、ぶらり川越 GAME DIGGに参加してきました。 ちなみにこのイベント、ちょっとユニークなんです。特定の会場をドーンと構えるのではなく「オープンタウン型」として、歴史ある川越の街全体を舞台にする、という試みが目立っていました。事前にこの話を聞いた時は、街の中でゲームと出会うってどんな体験になるだろう?と個人的な疑問と興味を抱きつつありました。 ただ、当日はあいにくのお天気…。イベント開催中、一日を通してしっかり雨が降り続くという、オープンタウン型イベントにとっては、少し厳しいコンディションでありました。それでも傘を片手に、雨にも負けず元気に展示されていたブースを巡ってみると、やはり面白いゲームとの出会いはちゃんとありました。 むしろ、こういう天気だったからこそ、かえって強く印象に残ったというか、記憶に残る出会いになれた気がします。そこで今回のレポートでは、この雨の川越 GAME DIGGで、私モブが特に「おっ」と感じ入った4つのインディーゲームを中心に、当日の様子と合わせてお届けします。 湯斬忍者:一杯のうどんに込めた地域愛と、湯切りされた固定観念 雨の川越 GAME DIGGで最初に足を止めたのが、この『湯斬忍者』のブースでした。まずはキャッチコピーをご紹介します。「香川のうどんがお客様に届くまでの、バックヤードの死闘をノンフィクションでゲーム化しました(嘘)」…この一文だけで、なんだか面白いことが起こりそうな予感が湧いてきますよね。 ゲームの内容でいうと、プレイヤーがうどんを作る忍者となり、迫りくる敵(うどん作りの秘密を狙う刺客らしいです)を倒しつつ、カウンターの向こうで待つお客さんに出来立てのうどんを提供する、というシンプルなアクション。操作も直感的で、矢印キーで移動しながらうどんの「湯切り」を行うのが基本。移動しながらシャッシャッと湯切りして敵を倒し、お客さんの前ではZキーでうどんを提供していくわけです。 ただ、このゲームで心に刻むべきは、あくまで「お客さんへのサービス」が最終目的という点。攻撃手段の「湯切り」にも肝心の「うどん」が必要不可欠で、手持ちがなければ戦闘も提供もままなりません。なので、単に敵をバシバシ倒す爽快感だけでなく、うどんというリソースを管理しつつ「お客さんへのサービス」をどう全うするかへのバランス感覚が問われるのです。このユニークな切り口には「なるほど」と感心させられました。 実際にプレイしてみると、シンプルな操作性と軽快なアクションで、誰でもすぐに楽しめる、いわゆるミニゲームらしい魅力がしっかり詰まっています。キャラクターのコミカルな動きや、うどんというテーマ自体が持つネタっぽい面白さも素晴らしい。まさに「小さくて、しっかり面白い」という評価に相応しいミニゲームでした。 実はこのゲーム、Unityroomで2018年から公開されているため、「なぜ今更?」という声もあるかもしれません。ですが、この「誰でも気軽にすぐ遊べる」というとっつきやすさこそが、今回のイベントの文脈で非常に重要。というのも、このゲームがここに出展した背景にその理由があります。 ブースで制作者の方に直接お話を伺いしたところ、この『湯斬忍者』、なんと香川県のゲームクリエイターたちが集うコミュニティから生まれた作品だそうです。単なるゲームジャムの成果物というだけでなく、そこには「香川」という地域性や、そこに根差すクリエイターたちの想いが込められている。うどんがテーマだった理由もそこで納得できました。 実際、このゲームは香川県で開催されている地域密着型ゲームイベント「SANUKI X GAME」にも出展経験があり、今回はその主催側でもある「讃岐GameN」さんが出展されていたということ。本作を入口にして少しでも香川県のことや、地域のクリエイターたちの活動に興味を持ってもらえたら、とのお話もお聞きできました。「これを機に香川に遊びに来てくれたら最高ですね!」…そんな熱い想いを語られた制作者さんに、思わず頷いてしまいました。 この制作者さんの想いを聞けただけでも、「川越まで来て本当によかった」と、心から思えたほどです。 振り返ってみると、最近いくつかのゲームイベントに参加する中で、自分のゲームを見る視点が、どうしてもゲーマー寄りに偏ってしまっていたように感じます。でも、本作とその背景にあるストーリーに触れて、自分の中にあった「インディーゲームとはこうあるべき」みたいな小難しい理屈や固定観念が、出来立てのうどんのようにスッキリと「湯切り」された気分になりました。「こういうアプローチこそが、インディーらしい一面なのかもしれない」と。そんな、忘れかけていた大切な視点を思い出させてくれた作品でした。 そして何より、ゲームの話から香川への愛まで、本当に楽しそうに、そして熱心に語ってくださった制作者さんの姿が、とても印象的でした。『湯斬忍者』の根底にある「お客さんに最高のうどん(=ゲーム体験)を届けたい」というサービス精神の源流を、垣間見たような気もします。「自分もブースに立つときは、これくらいの熱量と誠意を持たないとだな」なんて、帰り道にちょっとした宿題をもらったような、そんな気持ちで次のブースへと足を運びました。 MeloMisterio -play your melody-:静かに響く旋律と誰でもできる即興演奏 『湯斬忍者』のブースで香川への想いを馳せた後、次に向かったのは『MeloMisterio -play your melody-』。こちらはジャンプとダッシュというシンプルな操作だけで、なんと即興演奏(!)ができてしまうという、新感覚の3Dプラットフォームゲームでした。この紹介文だけでも、ゲームのユニークさが十分に伝わるでしょう。 ただ、操作には面白い工夫が凝らされています。ジャンプとダッシュが各々「二つのボタン」に割り当てられており、ボタンを押すたびに特定の音(綺麗なシロフォンのような)が鳴る仕組み。ボタン毎に音の高低差が設定されていて、プレイヤーは移動アクションを行うたびに、自分だけのメロディーを即興で奏でることができるのです。 もちろん、この音の高低差は単なる雰囲気作りだけではありません。ゲームのコアである3Dプラットフォームパズルとも密接に繋がっているのです。目の前の障害物を越えるために、音の高さに応じて位置が変わるブロックを操作することも可能。一度システムを理解すれば直感的に応用できるので、これを活かしたパズル性はなかなか歯ごたえ十分。ゲームコンセプトの斬新さだけでなく、プラットフォームパズルとしての面白さも両立させています、と。まずはそう評価できるゲームでした。 実際にプレイしてみると、正直なところ、難易度は思ったよりもわりと高めだったかなと。この音階ギミックに慣れる必要もありますし、単純に足場から落ちないように気を遣う3Dプラットフォーマー特有のシビアさもあって、最初は少し戸惑ったのも事実です。それでも、自分がなにかのアクションを取るたびに音楽が生まれ、それがゲーム攻略に直結しているというインタラクティブ性が「もう一回だけ!」という挑戦意欲を自然と掻き立てていました。画面もキラキラしたデジタル空間といった趣でしたが、目が痛くなるくらいの過度な派手さではなく、心地よいバランスが保たれていたので好印象。 しかし、本作を語る上で外せないのが、「コエトコ(旧川越織物市場)」という歴史ある建物の中に展示されていたこと。 この趣深い場所でプレイできたのは川越 GAME DIGGならではの贅沢であり、特別な体験でもありました。雨音と建物の静けさの中、プレイヤーのアクションに応じて響き渡る透明な綺麗な音。しかもプレイヤー毎にメロディーが違うので、横で聞いていると何らかの「エモさ」を覚えるほどでした。会場で常に新しい生演奏が流れるのは実にクレバーで、飽きずにずっと聞いていられる点は大きいメリットでしたね。 実に、「主催者は意図的にここに配置したのでは?」と感じるほどかと。 単純な感想ですが、ゲーム自体の面白さもさることながら、私のように楽器経験が皆無(カスタネットができるくらい)の人間が「即興演奏」できるなんて、想像もできない貴重な体験でした。音楽大学出身という制作者さんが、「好きな即興演奏の楽しさを、誰もがゲームで体験できるようにしたかった」と語る純粋な想いにはリスペクトしか感じられませんでした。普段このジャンルはあまり遊ばない印象ですが、リリースされたら自分だけのメロディーを奏でてみたい…そう感じさせた一作でした。 まだ:川越で出会ったゲームと、これからのこと というわけで、雨の中の川越 GAME DIGGレポート、前編として『湯斬忍者』と『MeloMisterio -play your melody-』の二作品をご紹介しました。 正直なところ、一日中降り続いた雨は、「オープンタウン型」というユニークな試みを存分に味わう上では、やはり少し厳しい条件だったかもしれません。しかし、だからこそ、屋根の下や特定の会場で出会った一つ一つのゲーム体験が当時の風景と一緒に、より深く、そして鮮明に記憶に残れたと思います。 『湯斬忍者』では、開発者の方との温かい対話を通じて、うどん一杯に込められた地域コミュニティの熱意や、ゲームが持つ繋がりの可能性に触れることができました。そして『MeloMisterio』では、文化財「コエトコ」という特別な空間と雨音が奇跡的にシンクロし、他では決して味わえないであろう、深く心に響く即興演奏の「エモさ」を体験することができたのです。