インディーゲーム開発は、時として「勢い」や「熱量」の産物だと言われます。しかし、ここにある種、異様なほどの「正確さ」をもってゲームを組み上げるチームがあります。

1級建築士であり漫画家でもあるヒヅメ氏、そして高校生時代に彼と出会い、現在はフルスタックエンジニアとして活動する手羽先氏。そこに医療機関の広報を務めるエリナ氏が加わった「テバサキゲームズ」です。

彼らのデビュー作『コメンテーター』が、なぜこれほどまでに「プレイしやすく、迷いがない」のか。その裏側には、原子力発電所の設計PMまで経験した建築士の論理と、それを完璧に実装する驚くほどの「設計図」がありました。

今回は、全く異なるバックグラウンドを持つ三人が、どのようにして一つのビジョンを共有し、チームとしての「正解」を導き出していったのか。その出会いから開発のスタート地点まで、飾らない言葉で語っていただきました。

※このインタビューは、2025年1月30日に行われた内容です。現在と内容が異なる可能性がありますので読む際にはご注意ください。


テバサキゲームズ

テバサキゲームズは、一級建築士とAIプログラマーというバックグラウンドを持った異色のメンバーからなるゲーム制作ユニットです。

ゲーム開発は、コメンテーターの構想を描いていたプランナー兼ディレクターのヒヅメが、当時高校生だったプログラマーの手羽先に声をかけるところからスタートしました。今後も「普通に面白いけど気づきを得られる」シリアスゲームの開発を目指していきます。

  • ヒヅメ:プログラム以外を全部
  • 手羽先:プログラマー
  • エリナ:デザイン

Chapter 1. キービジュアルの挑発:「このおじさん、コメンテーターじゃないんですか?」

――よろしくお願いします。本日はテバサキゲームズの3名に来ていただいておりまして、最初にこの3名のお名前と簡単な自己紹介をいただければと思っております。では、まず手羽先さんから、どうぞ。

手羽先:手羽先と言います。『コメンテーター』ではプログラマーを担当していて、普段はフルスタックエンジニアとしてAIプログラマーみたいな、AIプログラミングとかしてます。よろしくお願いします。

ヒヅメ:はい、テバサキゲームズでプログラム以外を担当しているヒヅメです。よろしくお願いします。普段は建築士として働いたり、あと漫画家として活動したりしています。どうぞよろしくお願いします。

エリナ:はーい。テバサキゲームズで広告とデザインを担当しております、エリナと申します。普段は医療機関で広報をやっております。どうぞよろしくお願いします。

――今制作されている『コメンテーター』というこのゲームはかなり特殊なコンセプトで、目の付け所が非常に鋭い作品だと思っています。簡単にこのゲームの説明を話していただきながら、どういったところでインスピレーションを受けて、どういったスタート地点でこの開発が始まって行ったのをまずお聞きできればと思いますが、いかがでしょうか。

ヒヅメ:一番最初にコンセプト、このゲームがどういったところかっていうところからお話しすると、まずプレイヤーである主人公が、ゲームの世界でコメンテーターになって、ニュース番組に登場して、ニュースに対してコメントをしていくというゲームです。それに打ち合わせの際にどういうニュースに対してどういうコメントをするかっていうところをパズルのように選択をして、それによって本番の生放送で自分の発言が変わる。その発言によって視聴者の注目度であったり、スポンサーの満足度であったり、そういったものが変化しまして、そのスコアによって世の中が変わっていくっていうのを体験できるゲームです。

ヒヅメ:このゲームを思いついたインスピレーションは何だったかっていうところで言うと、私が思いついたわけではなくて、世の中に『The Republia Times(ザ リパブリアタイムス)』っていうゲーム、フリーゲームが既に存在してまして。『Papers, Please(ペーパーズプリーズ)』のルーカス・ポープさんが作っているゲームで、主人公が新聞記者なんです。紙面にどんなニュースを扱うか、どれくらいの大きさで扱うかっていうことで世の中が変化していくっていうのを楽しむことができるゲームです。そこを初めてプレイした時にものすごい衝撃を受けまして。すごく面白いゲームなんですけれども、時代が1950 ,60年とかそれぐらいなのかなっていう舞台設定で、かつ場所が多分…東ヨーロッパとかそこら辺の小さい軍事国家か何かなのかなっていうところだったんですね。日本人にとっては地理的にも歴史的にもちょっと遠いところでして、すごくそれでも面白いゲームなんですけど。もっとこのゲームをバッチバチと肌に感じるためには、もっともっと身近な舞台であった方が楽しいだろうなと思った時に、そういうゲームが他にはなかったので、作ってみたら面白いだろうなって思ったのがきっかけでしたかね。

有名開発者ルーカス・ポープが制作した『The Republia Times』の画面。公式サイトより引用。

――確かに、日本に住んでるとやっぱテレビを通して朝も昼も夜も報道番組に触れる機会がすごく多いなと思うので、その辺のテーマ選定がすごく既視感がありました。すごく印象的で、インスピレーションのポイントがいいなと思ったところでした。

ヒヅメ:ありがとうございます。そうですね。できるだけ身近にっていうことだったので、新聞は今でもありますけど、インターネットの記事とか形を変えて世の中に影響をもたらすってなった時に、プレイヤーがあんまりこう疑問を抱かないっていうか、馴染みやすい媒体は何だろうって考えた時に、さっきおっしゃったように1日中どこかしらで流れているテレビニュースがやっぱり今でも馴染みやすいのかなっていうところでした。かつその中でもキャスターとかではなくてコメンテーターっていう、日本だと当たり前のようにいるんですけど、海外ではなかなか馴染みのない職業っていうんですかね。それを加え、それを主人公にすることによって、すごくローカル性ができたのかなと感じてます。

――確かに今おっしゃるとおり、コメンテーターって日本独特のこの立ち位置だなと思いました。海外だと「アンカー」っていう立場が中心ですが、この日本の番組って司会の方がいて、コメンテーターが数人いて、それぞれの違った立場で話を聞いていくみたいな。そう思うと、このコメンテーターっていう立ち位置は面白いですね。

ヒヅメ:そうなんですよね。だからもう必ずしも何かの専門性を持った人である必要はなくて、例えばそのタレントさんであっても、視聴者が感じるところを代弁してくれるとか、共感してくれるとか、あとは珍しい視点を与えてくれるとか。そういったことでも役割として生きていけるっていうのがコメンテーターっていう職業のユニークなポイントだと思うので。そうすると、あの雑多なニュースを扱う時に必ずプレイヤーは「よく分かんないんだけどな」って思うニュースも出てくると思うんですけど、それこそ日本のコメンテーターが出くわす、何て言うんですかね、気持ちだと思うので、ちょうど良く疑似体験できるんじゃないかなと思いましたね。

――私もネットで今出されている試遊版でプレイしてみたんですけど、このゲームって結構皆さん突っ込まれるところがあるのが、ちょっと今日お聞きしてみたいなと思ってたとこなんですけど、キービジュアルのおじさんは、あれはコメンテーターではなくてプロデューサーですよね?(笑)

ヒヅメ:そうなんですよ。テレビ番組のプロデューサーなんですよね。元にしたゲーム『The Republia Times(ザ リパブリアタイムス)』で主人公の描写が一切ないんですよね。あくまで記事の紙面が出てくるニュースがこう、パンチリストみたいな感じで出てくるだけで、主人公の描写がないところが面白いなって思って。今回は主人公はあくまでプレイヤーの方なので、あんまりこう色がない主人公がいいな、できれば全部一人称視点で描きたいなっていうのがあったので、まず主人公はその時点で姿がない設定になりました。その後にプロデューサーとキャスターの女の子が必要だねっていう、なんで女の子かって言ったら、プロデューサーがおじさんなんで、バランスを取るために。さすがにゲームの見栄えのバランスを取るために女の子でないと華やかさがあまりにもないというので女の子を入れたんですけど、そういう中で決まっていった感じですね。

ヒヅメ:なのでキービジュアルを考えた時に出せるのが女の子かおじさんかしかいなくて、その時にその僕たち駆け出しにさえなれてないインディーゲームの制作ユニットですから、注目してもらうためには、やっぱりちゃんと目立わないといけないっていうのもあって。その時にキャラクターデザインいくつかあった中で、今回の採用されたプロデューサーの梅沢っていうイラストを最初に作った時に、メンバーの手羽先とエリナの反応がものすごい良かったんですよね。「こんなのいないよね、他に」「面白いね」ってなったんで、じゃあもうこのおじさん1本で全面に出してやっていこうっていうので、決まりましたね。そのあと自分たちでも突っ込んでたんですけどもういいんじゃない?って。(笑)。ゲームをプレイすればわかるしね。

エリナ:あれデザイナー的に言わせてもらうと、このおじさんのインパクトがあまりにもあるので、それだけでもう目を引くことができるんですよ。やっぱりゲーム業界ってすごくキービジュアルがすごいかわいい女の子だったりとか、すごい派手なキャラクターがたくさん出てきたりとかっていうのが多い中で、、ビジュアル的にすごい地味なおじさんが派手に出てくるっていう、あのビジュアルがすごく、いい仕事をしてくれてますね。

ヒヅメ:キービジュアルでカーディガンとポロシャツを着てるおじさんは多分一人もいないと思う。

一同:(笑う)

――手羽先さんはそれについてはどうですか?

手羽先:すいません。ゲーム大好きなプログラマー視点というか、プログラマー視点でも何でもないですけど、ゲーム好きな人からするとおじさんがメインビジュアルに見えるのって『ゼルダの伝説』にめちゃくちゃ近いなってふと思ったんですよね。『ゼルダの伝説』って主人公はあの男の子だと思うじゃないですか。「あの子ゼルダなんだ」って。でも全然違うっていう。

エリナ:違うの!?

手羽先:違いますよ。(笑)

エリナ:マジか。

手羽先:っていうぐらいな。

ヒヅメ:男の子はリンクだよ確か。

手羽先:そう、リンクくんなんで。

――しかしそういう意味で言うと、このキービジュアルはゲームのコンテクストも意外と踏襲しているとも言える深みがありますね。実際、皆さんおっしゃられているように、このキービジュアルってすごく目を引いて、他のゲームと比べて逆に埋もれてないですよね。実際その絶妙にちょっと不気味なこの方にすごい目が向くというか。

手羽先:ちょっと怪しい感じ出てますよね。

エリナ:すごいヒヅメが描いた時にすごい言ってたのが、そのいい人なのか悪い人なのかわからない絶妙なラインを狙ったって言ってました。

ヒヅメ:言ってましたね。

Chapter 2. バス停の運命:1級建築士、高校生エンジニアを「ナンパ」する

 ――キービジュの話につながるかわからないんですが、この『コメンテーター』という作品を示す上でお3方にお聞きしたい質問があります。このゲームを体現するためにどういった要素にフォーカスされてたり、作られてたりとかしたんでしょうか。

ヒヅメ:これはゲーム自体が言い出しっぺが僕なので、逆に手羽先くんから聞いてみたいですね。僕が知りたいな、むしろ。

手羽先:そうですね~、じゃあちょっとエリナさんにお願いしたいと思います。

エリナ:えぇ!?(笑)私ちょっと逆に聞きたいんだけど、手羽くんはなんでそのヒヅメの誘いに乗っかろうと思ったの?

手羽先:僕も、それだったら一番最初のエピソード、出会いのエピソードから話した方がいいんですかね?

――ぜひ、聞きたいですね。

手羽先:去年の今頃か忘れましたけど、それぐらいの時期にとあるイベントがあって、『MINECRAFT』っていうゲームがあると思うんですけど。それの何かワークショップが多分佐賀県であって。佐賀アリーナ周辺の建物をヒヅメさんが『MINECRAFT』の中で建築を、ワールドを作ってですね、それを子供達に遊んでもらうっていうワークショップのイベントがあったんですね。で、僕もそのやってる主催してるところの方と知り合いで、そのスタッフとして参加してたんですよ。そこで一緒に何かのワークショップをして、で、その後打ち上げに行って。そしたらヒヅメさんがゲームを作ってみたいんだよねみたいな話をされて。で僕、プログラマーなんで何でも作れますよみたいな話をしたら、「じゃあちょっと一緒にゲームを作ってみようか」っていうノリでここまで来たみたいな感じです。

手羽先:で、どんなゲームを作るか、そん時は詳細は聞いてなかったんですけど、その後Facebookでやり取りするうちに、もう聞いてる限りすごく発想が新しいなというか、今までやったことがないゲームだなって思って。すごくこうワクワクしたんですよね。よくあるじゃないですか。「これって他のゲームであるよね」とか、「これってほぼほぼこれと同じじゃん」みたいなものだったりとか、結構あると思うんですけど。「それってビジュアル変えただけだよね」とか、「ちょっとルール追加しただけだよね」みたいなところはあるんですけど。これは完全にちょっとベクトルが違うし、すごい面白そうだなと思って、そこからもう開発にのめり込んでいったって感じですね。

ヒヅメ:これちなみに厳密に言うと、打ち上げの場所で盛り上がったんじゃなくて、打ち上げの場所に行く途中のバス停で盛り上がった。

エリナ:あ、そうなんだ?(笑)私、その元々ヒヅメがゲーム作りたいって言ってたのは知ってて、その時にこそっと構想は聞いてたんですよ。で、手羽くんと知り合った時にこないだのイベントですごいいいプログラムやってくれそうな子、ナンパしてきた!みたいなノリで伝えられてたから。

手羽先:知らなかった(笑)

エリナ:そんな神みたいな高校生いる?と思って。

手羽先:確かにその時僕高校生でしたね。

エリナ:そういう感じだったんだね。

ヒヅメ:うん。当時で手羽先くんが高校生で、そのイベントに参加してくれて、運営のサポーター?サポート?として入ってきてくれて、丸一日のイベントを2日間やったんだけど。色んなトラブルが起きる中で、ひとりだけちょっと動きが違う子がいて、ものすごいサクサクと現場を解決していくし、焦らない。で、かつ周りに状況をさっさと報告する。なんていうのかな、仕事ができる子でもあって、何かすげえのが一人混じってんな、何だろうあれ、大学生のボランティアかバイトなのかなと思って。で、2日間話してたら、年齢の話になぜなったのかはよく分からないんだけど、いや、高校通ってるんですよねみたいな話になって、あ、高校生なんだって。すごい高校生でこれだけ出来てるんだったら、一緒に仕事したら面白いかもと思って。で、ゲームの話をしたのかな。

ヒヅメ氏の著書『一級建築士になりたい』(2019)。Amazonストアより引用。

手羽先:なんか、だから元々はお互い自己紹介してる中で、ヒヅメさんが1級建築士って聞いて、僕びっくりしましたし、逆に僕も自己紹介してプログラマーやってますみたいな感じで話してたら、そのヒヅメさんがこう、ゲームの前のゲームに限らず「何かこういうアプリ欲しいんだよね」とかってのを結構話されてて。「何かこういうスマホアプリあったらいいよね」に対して「あぁ面白いっすね」みたいな感じで話した時に「手羽先くんはどんなものが作れるの?」みたいな話になったんですよね。で、そのプログラマーって言っても色んな種類があるじゃないですか。AIのプログラムを書いたりとか、WEBサイト作ったりとか、ゲーム作ったりとか、色々あると思うんですけど、僕はフルスタックエンジニアって言って大体何でもやるようなプログラマーなんですよね。

エリナ:いいやつ、バックエンドからフロントまで。

手羽先:そうそう、そうです。なんで、「大体何でも作れますよ」ってちょっと危ない発言をしたんですけど(笑)

ヒヅメ:「大体なんでも作れます」って言ってたね。

エリナ:それで自分で首絞めてんだもんね。色々。

手羽先:ははは(笑)そうですね、ほんと良くないなと思いながら、何でも作れますよみたいな感じで話したら、「じゃあ作りたいゲームがあるんだよね」っていう感じでゲームに繋がりましたね。

エリナ:いい人材を拾ってきてくれたもんだヒヅメ…。

ヒヅメ:ね~。だからその『コメンテーター』のなんたるかって言うのは出会いですかね、じゃあ。出会いが生んだゲームじゃないでしょうかね。

――『コメンテーター』を作るに重要な要素は、もう最初の出会いってことですね。

ヒヅメ:そうですね。僕自身が最初から一人で作るつもりがなかったので、ゲームを。作る方法はそりゃあるし、ネットで調べるなり、今ならAIもあるんで、何かしらの形で一人で作ることは可能だと思うんですけど、その人と仕事をするのが好きなので、今までやったことない何かをやろうっていう時に、誰か他の人とも一緒に仕事をすることで何か収益を得たいっていうのがあるので、だから本当に『コメンテーター』の起点はやっぱ出会いだったんじゃないかなって。手羽先くんだったら、何か面白くできるかもって思ったのがでかいですね。

Chapter 3. 「建築家仕様」:発電所の設計図でゲームを建てる

――イベントをサクサク捌く高校生だった手羽先さんですが、そもそもこのゲームに参加したいと思った理由、モチベーションはどこにあったのでしょうか?

手羽先:そうですね。それはすごく多くて、最近だとお仕事だったり開発とかいろんなクライアントさんに携わったりとかしてるんですけれども。何かこう、その個人でプログラムを作ったり、アプリとか作るんですけど、やっぱり人と同じことしててもあんまり楽しくないタイプで、オンリーワンのものを作りたいというか。クリエイティブ性のあるものを作りたいタイプで。

手羽先:なのでやっぱりモチベーションはそこに結構ありますね。だから今回のお話を聞いた時も流行りに乗っかったとか、ああいうの流行ってるから真似してみようよとかっていうやつだったら多分興味なかったと思うんですけど、今回お話をもらった『コメンテーター』というのは、もう何から何まですごく自分の中に刺さってたんですね。これはもうやってみたいなっていう、本当に見てみたいこのゲームが市場に出た時のプレイヤーの姿とか反響だとか、伸びだったりとか。それは定量的なDL数であったり、高評価数であったりとか。その先のビジョンがすごくしっかりと見えたんですよね。実況者がめっちゃ遊んでてなんか盛り上がってるとか、プレイヤーがああだこうだ言って、どっちがいい、どっちがいいっていうのをネット上で議論したりとかって言う姿が鮮明に見えてきて、これはやってみたい、作ってみたい、作って遊んでみたいし、遊んでもらいたいなーっていうのがモチベーションでしたね。

――オンリーワンな尖ったものを作りたいという思いと、より多くの人に評価される「数字」への意識。そのトレードオフについてはどう棲み分けされていますか?

手羽先:でも僕もクリエイティブなことはすごい大好きで、個人でアプリ作ったりとかいっぱいしてるんで、常に常日頃そういうことを考えてるんですけど、トレードオフとの戦いですよね。基本的にはやっぱその、しかもそのトレードオフが1個だけじゃなくて何層にも重なってて、重層的なトレードオフを生み出してることが結構クリエイティブ業界ではあると思うんですけど。今回の『コメンテーター』に関してはこう、ぶっちゃけ特定のこの人達に刺さればいいなっていうところがあって、それはもちろん定量的に測れるって言ったんですけれども、例えば日本人の半分の5,000万人とか数千万人とか、数百人、数百万人とかっていう、そんな桁ではなくて。例えば1万人でもいいからめちゃくちゃ刺さってるコアのファンがいるっていうデータがあるだけで、僕はすごい楽しいなって思えたんですよね。

手羽先:なのでそこで言うと、そのたくさん売るっていうところではすごいトレードオフになってますけど、僕はそっちよりかはハマってくれる人がどれぐらいハマって、好きになってくれる人がどれぐらいの感情でハマってくれるかだとか。そういう少なくてもいいから刺さってくれたらいいなみたいな思想で動いてましたね。やっぱ市場がこう決まってくる、パイが決まってくるようなもんなので。ただ、その『コメンテーター』に関しては、どっちに転ぶか分かんないなっていうのが一つあって、その先を見てみたかったんですよね。自分の中ではすごくコアなファンの層に刺さるのかなって思ってたんですけど、今回の東京ゲームショウ(2024)に出してみたら、結構そういったコアではない、それこそアナウンサーの方だったりとか、いろんなファンのいろんな年齢層に刺さってたっていう実感がちゃんとあって、これは行く先どうなるんだろうみたいな。そこがすごくワクワクしてたところですね。

――フルスタックエンジニアとして、技術的な側面で特にこだわっているポイントはどこでしょうか?

手羽先:そうですね。僕はフルスタックなんで、フロント、UIとかUXとか、あとはバックエンドのデーターベースの管理とか、ゲームで言ったらデータをどうやって管理するか、どうやって設計するかってところなんですけど、一番は目的と手段を間違えないようにするってのが一番気をつけてますね。そのゲーム、それこそTIGSとか東京インディーゲームショウの時に行った時に、初めてそのインディーゲームの人たちを見たんですよね。で、ふと思ったのは、すごい技術力高い人いっぱいいるんですよ。で、確かに高いけど、目的と手段が違うなって人がちらほらいたんですよね。

手羽先:僕が色んな人に遊んでもらいたいとか、楽しんでもらいたいっていうのが目的なんですよね。なんで自分だけ自己満足で終わったようなプログラム書いちゃダメだってそこですごい気づいたんですよね。何か裏側でめちゃくちゃ複雑なプログラム書いて、とんでもない最適化をして綺麗なコード書いたとしても、じゃあ見た目がすごくダサくて、UX悪いゲーム作っちゃったら、多分プレイヤーの人って遊んでも楽しくないと思うんですよね。で、目的は価値の提供であって、その手段は別にどんなプログラム言語を使おうがエンジン使おうが今回UNITYを使いましたけど、別にUNREAL ENGINEでもいいし、フルスクラッチでエンジン作っても良かったわけで。っていう手段に囚われすぎないようにプログラマーなんでそこだけ意識して頑張って開発はしてましたね。なるべくシンプルに、そしてもう直感的にというか。いかに少ないボタンでとか、少ない回数でとか。分かりやすい操作感とか、楽しいフィードバックを与えるかっていうところにすごいこだわってはいましたね。

――実際にプレイしてみると非常に遊びやすかったのですが、制作の中でこだわられたポイントや、着眼点はどこにありますか?

ヒヅメ:それが手羽先くんがさっき言ったのと一緒なんですよね。ちゃんと楽しんでもらえるだろうか。このゲームで何が楽しいんだろうっていうところを決めて、そこだけ楽しんでもらえるようにしたいなっていうのが多いですね。だから、どちらかというとプランナーとしての役割としても仕事しますけど、うーん、できるだけこっちが面白いと思っているもの以外に変なノイズが入らないようにとか、さっき言ったチュートリアルないよねっていうのも、チュートリアルなしでちゃんとゲームできるようにしたいなっていうのもありますね。そのやりこみゲームですごくいろんなタスクがあってとか、いろんなパラメーターがあってっていうゲームではないので、できるだけとっつきやすく、初めてやってもできるように。で、それでいて僕たちがこのゲーム、こういうところが面白いよねっていうのがちゃんと伝わるようにっていうところをやっぱ考えてましたね。

――エリナさんはそんなヒヅメさんや手羽先さんの動きを見ていて、どういうポイントを見ていらっしゃったりするんですか?

エリナ:どうでしょうね。あのヒヅメくん、1級建築士じゃないですか。だから手羽先くんに対してこういう設計でやっていくよみたいな指示書とか、私に対して出してくれるデザインをこういう仕様にしようと思うから何かこういうイメージで作りたいなみたいなリクエストがあるんですけど、それがすごい建築士仕様なんですよね。

――建築士仕様、それは面白いですね。

エリナ:そう、すごいなんか、スプレッドシートになっていて、この部分に関してはこういう仕様でみたいなのがすごいリクエスト受ける側としてはすごいわかりやすくなっていて。そこに建築業界の仕事感がすごい見て取れて、わたし的にはすごいわかりやすかったんですよね。もともと私、そのヒヅメくんとは付き合いも長いので、そのヒヅメの好み的にこういうものが好きだろうなとか、こういう背景とか、こういうフォントはあんまり好きじゃないだろうなみたいなのがなんとなくわかってるんですよ。だからそういう昔からの友達同士でやっている阿吽の呼吸みたいなのはあって、すごく仕事しやすかったんですけど、そのヒヅメと手羽先くんの間でどういうやりとりがされてるのかっていうのは、私は普段のゲーム作りの現場としてはあんまり入ってなかったから、そういうの手羽くんが、どう思ってたか聞いてみたい(笑)

手羽先:いやもうエリナさんのその建築家仕様っていうの、めちゃくちゃ今いいな、それだ。やっと言語化できたみたいな。

ヒヅメ:そうなんだ(笑)

エリナ:何か要件定義とはまたちょっと違う、その何て言うのかな、工程表じゃないけど。私、もともと医療機関で働く前は生産設備の会社に勤めてて、ちょっと建築ほどではないんですけど、その工場内の設備とかの仕事をしていたので。だから工程表みたいなのを作ることも結構多かったんですけど、そういうのにすごい近しい、きちんとこういう手順にしていくと、ゴールはこう見えるみたいなのがすごいわかりやすく書かれてて、そういうの、よかったよね、手羽くん?

手羽先:いや、めちゃくちゃよかったっすね。

エリナ:だからチームとして何か動く上で、ヒヅメの指示が明確だったことと、こういうゴールがあるっていうのを明確に可視化してくれてたから、そういうのもよかったなってすごく思いますね。

手羽先:もうエリナさんと全くの同意見で。ヒヅメさん、結構僕もその副業って形で、いろんなシステム開発とかアプリ開発をするときに、もちろん要件定義から入るとか、もしくは要件定義を渡されて実装に入るってことがあるんですけど、ヒヅメさんのすごいところというか、そのヒヅメさんの作ったその仕様書がすごいのって、そのまだできてないものに対しての解像度がえぐいんですよね。その、まだ何もできてないのに、もうゲームが動いてるものをそのまま解説した、その解説書というかチュートリアルの攻略本みたいになってるんですよ。「え、なんでそこが見えてるの?」みたいなことが多かったりとか、これ初めての人が見ても絶対わかるよねみたいな。フォントのピクセルサイズからこういう風に置きたいとか、こういう風にアニメーションが走って、ここはこういうファイルでとかっていうのが全て列挙されてて、なんかもう作りあがったものの設計図を見てるような感覚で見てたので、これはもうすごい感動しながら作ってましたね。

――それはぜひ、公開可能な範囲でnoteなどで公開してほしいですね。ノウハウの本書けるんじゃないですか(笑)。

手羽先:してなかったっすねそういえば。ヒヅメさん。いや、もう売れると思います。ノウハウの本書けるんじゃないですかね。(笑)何かのゲーム、インディーゲーム開発者のためのフレームワークみたいな感じでフレームワーク売れそうな感じがしますね。正直。僕もちょっと書き方知りたいんで、買います(笑)

ヒヅメ:一応ね、あれよ。ゲーム開発にあたって本は買ってそれを見ながら作ってはいるはずなんだけどね。もちろんそんな細かくは書いてないけど、ゲームプランナー入門っていう本とかね、買って。それ読んで。とか、あとインディーゲームサバイバルガイドとか、そういうの読んで、なるほどこんな感じかって。シンプルなサンプルってほどでもないけど、そういうのが書いてあるからこういう感じで伝えるのかなみたいなのと、あと仕事でいうと、その建築は確かに1級建築士ではあるんだけど、自分がやっているのは世の中の建物とかじゃなくて、発電所の設計なんですよね。発電所とか変電所とかの設計なので。
  今、プロジェクトマネージメント、プロマネっていうと、多くの人はIT業界の方をイメージするし、多分人材の数としてもそっちの方が多いと思うんですけど、変電所とか発電所を作るプラント業界。そういうのを作るエンジニアをまとめる仕事として、プロジェクトマネージャーっていうのをプロマネって呼ばれる仕事もあるんですよ。で、僕はそっち側の経験とかが今の仕事に活かされているのかなっていう気はしますね。一応だからね、プロマネもね、PMBOKぐらいは読んだことあるよ。

原田:お話を伺っていて、受け取る側への想像力というか、この相手だったらこっちがいいだろう、という先読みをかなりされている感じがすごくします。

ヒヅメ:いや、ありがたいですね。そうなんですよ。プロマネとして働いてる時はすごくね、学歴の高い頭のいい人たちが多いんで、そういう人たち向けの書き方をするのが好まれるし。で、いざ現場に出て働いて。で、プラント工事とかだと、もう下請け、孫請けとかがどんどんいて、6次下請けとかいるんですけど、中学、中卒の歯のないお爺ちゃんとかに対してやっぱ教えなきゃ、こういうふうにやるんですよっていうのを教えなきゃいけないから、プロマネ用に書いたものを見せても何も通じないんですよね。
  で、仕様書もできるだけその絵を多く描いたりとかもしてましたし、その後無職になって知り合いの銭湯で働いてた時も、仕様書、仕様書っていうかマニュアルを作ってたんですけど、それもやっぱりこう、それでも6次下請けのおじさんでも文章を読むっていうのは慣れてるんですけど、やっぱ当時のハタチぐらいの男の子とかに文章を読むっていうのはすごいハードルが高いし、なんでそんなの読まなきゃいけないの?ってなっちゃうから。だから今度はじゃあインスタグラムの動画でマニュアル作るかとかですね。できるだけ伝えたいっていうのが大きいのかもしれないです。

原田:プログラマーはこういう情報が欲しいんじゃないか、という想像力がすごいですよね。なかなかそこに気が回らない気がします。

手羽先:すごかったっすね。ほんと。プログラマーに通じやすいような感じで書かれてましたよ。そのノートもヒヅメさんが全部書いて、多分全部ですよね?ほとんどヒヅメさんが書いてると思うんですけど、そのやっぱこう伝える能力がズバ抜けてるというか、定例でミーティングとかするんですけど。そこもこう、プログラマーの僕なのに伝わるように話してくれたりだとか、汲み取ってくれるっていうのがすごくて、すごい円滑に開発サイクルが回ってましたね。

ヒヅメ:よかった。


(後編に続く)