今回のインタビューは、脚本家の小林雄次さんがデビューに至るまでの経緯やその過程での経験を詳しく語っていただきました。 小林さんは大学時代からシナリオ作家協会の夏の公開講座に参加し、高田馬場のYMCAで知り合った人物との出会いを通じてプロの世界へと足を踏み入れました。ホームページビルダーを使って立ち上げた「シナリオランド」での活動や、ラジオドラマ専門チャンネルでの初めてのギャラが発生した仕事の話など、デビューまでのリアルな体験談や、特にウルトラマンや特撮への熱い思いが伝わってくる円谷プロダクションでのバイト経験、そしてサザエさんの脚本家としてのデビューのきっかけとなったエピソードは、これから脚本家を目指す人々にとって非常に参考になるでしょう。 また、小林さんがプロの脚本家としてのキャリアを築く上での苦労や挑戦、そして弟の小林英造さんとの比較も興味深いポイントです。脚本家として成功するためのアドバイスや、業界での人脈の重要性についても触れられています。 このインタビューを通して、小林雄次さんの人柄や仕事に対する真摯な姿勢が垣間見えるとともに、脚本家という職業の魅力と現実が伝わればと思います。デビューを目指す方々には必見の内容です。 インタビュイー:小林雄次 脚本家・小説家 1979年、長野県生まれ。 2002年にアニメ『サザエさん』で脚本家デビューを果たし、以後はアニメ・特撮やノベライズ執筆を中心に活動しながら、一般ドラマの脚本も手がける。 日大芸術学部映画学科非常勤講師。東京作家大学講師。そのほか、劇作家やイベンター、各種講座の講師としても活動している。 <代表作>アニメ/『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』『美少女戦士セーラームーンCrystal』『スター☆トゥインクルプリキュア』『スマイルプリキュア!』『スイートプリキュア♪』『まほうのルミティア Luminary Tears』『イナズマイレブン オリオンの刻印』 『聖闘士星矢Ω』 『秘密 The Revelation』『サザエさん』 特撮/『ウルトラマンZ』『ウルトラマンR/B』『ウルトラマンオーブ』『ウルトラマンX』『ウルトラマンギンガS』『ウルトラマンメビウス』『ウルトラマンマックス』『ULTRASEVEN X』『獣拳戦隊ゲキレンジャー』『牙狼<GARO>』『劇場版 ウルトラマンX きたぞ!われらのウルトラマン』『劇場版 ウルトラマンギンガS 決戦!ウルトラ10勇士!!』『宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』 TVドラマ/『ベイビーステップ』『オルトロスの犬』『監査法人』『中学生日記』『世にも奇妙な物語』『執事喫茶にお帰りなさいませ』『栞と紙魚子の怪奇事件簿』 バラエティ/『天才てれびくんYOU』 著作/『モリのいる場所』『キセキ -あの日のソビト-』『小説 スマイルプリキュア!』『ウルトラマン妹(シスターズ)』『特撮ヒーロー番組のつくりかた』『脚本家という生き方』 ……他多数 http://ameblo.jp/kyakuhonka/ インタビュワー:高達俊之 コウダテ株式会社 代表取締役 1973年、埼玉県生まれ印刷業界で4年間DTPに携わった後、『アンパンマン』『ルパン三世』『名探偵コナン』などのアニメ作品を制作するトムス・エンタテインメントに転職。16年間の在籍中に、企画・制作・営業と各部門を歴任。また、モンキー・パンチ、井上雄彦、京極夏彦らの原作アニメの文芸を担当した。 2017年4月、クリエイターの繋がりを大切にし、エンターテイメントの礎を築くべく法人を設立。アニメ・映像等に関連したコンテンツ企画・製作・コンサルティングを行っている。 ――脚本家の小林雄次さんにデビュー周りのお話を今回伺いたいと思います。 小林さんと僕(高達)はかなり長い付き合いで、知り合ったのは、小林さんが大学2年の頃だったと思います。 そうですね。僕が上京して初めてちゃんと知り合った社会人が高達さんでした。 ――小林さんと僕が最初に知り合ったきっかけは、シナリオ作家協会の夏の公開講座でした。 そのときは、講座の最中には出会わなかったのですが、後日でしたよね。ネット上で知り合って、お互い同じ講座を受講していたと分かったのは。 当時の講座は、今よりも多くの受講者がいました。会場も、シナリオ作家協会のシナリオ会館ではなく、高田馬場のYMCAという会場だったと記憶しています。プロになってから、僕は教える側で夏の公開講座のゲスト講師を担当したことがありますが、比べると昔の参加人数の方が、かなり多かった印象です。 ――何でですかね? 今はシナリオを学ぶにしても、色々な方法がありますけど、あの頃は対面形式しかなかったからかもしれません。あと、メインゲストとして、有名な方で言うと君塚良一さん。『踊る大捜査線』が、大ヒットした頃のちょっと後だったので、目当ての方も多かったのでは。僕も半分、君塚さん目当てでした。まあ、とにかく活況があって、人数がいっぱいいたことを憶えています。 ――今の時代の方がゲームシナリオなど、様々な形でシナリオが求められてると思いまるので、昔の方が多かったとは意外です。 昔が多い理由としては、勉強する「場」が限られていたこともあるかもしれません。当時の講座で憶えているのは、鼻から管を通している病気のおじさんが九州から、東京まで来られててビックリしました。 ――初期のシナリオランドを始めたのは、その頃でしたよね。 ホームページビルダーというソフトを使って、個人のホームページとしてシナリオランドを作っていました。そこで夏の公開講座に参加した記録も書いたりしていました。また、脚本家になりたい人向けの掲示板(BBS)を置いたりして、交流できるようにもして、その中の一人が高達さんでした。
水江未来の旅 編集後記
収録を経て、水江未来氏のキャリアは、日本のアニメーションで独自の立ち位置を確立したアーティストであり、その作品は物語に依存しない「ノンナラティブ」な表現が特徴であることを再認識した。彼の作品は、視覚と音楽の融合を通じて観客に新しい体験を提供し、国内外の映画祭で高く評価されている。本稿では、水江氏がどのようにしてこの独自のスタイルを確立したのか、その背景にある幼少期の映画体験や、デジタル技術に対する彼のアプローチに焦点を当て、彼の作品が持つ深い意味を探っていこうと思う。 アニメーションにおけるノンナラティブな表現とは? 水江未来氏の作品は、視覚的な抽象と実験性を追求したアニメーションとして、国際的な映画祭で高く評価されている。彼の作風は「ノンナラティブ」という言葉で形容されることが多いが、その真意を理解するには、彼自身の言葉と制作背景を探る必要がある。本稿では、彼のインタビューを基に、ノンナラティブ表現の意味と、その背景にある幼少期の映画体験、そして現代のアニメーションに対するアプローチや、新作アニメーションについて考察する。 まず、水江氏の作品が「ノンナラティブ」とされるのは、物語を主軸に置かない形式的な特質によるものである。彼自身は、物語を全く排除するわけではなく、むしろ物語性を異なる角度から捉えている。例えば、彼の作品は細胞や幾何学図形といった具象から抽象へと変化し、それを通じて観客に多様な解釈の余地を与える。これは、伝統的なナラティブ形式とは一線を画すものの、独自の物語的体験を提供するアプローチである。 興味深いのは、水江氏が幼少期に経験した映画体験が、現在の作風にどのように影響しているかという点である。彼は『ジュラシック・パーク』や『ターミネーター2』といったハリウッドの大作を、幼少期に映画館で体験している。これらの映画は、当時のCG技術の進化を象徴するものであり、彼にとっては、リアルとフィクションが交錯する異質な体験として記憶に残った。特に『ターミネーター2』に登場するT-1000の液体金属表現は、彼に強烈なインパクトを与え、後の作品における「異質」や「奇妙」を追求する動機の一つとなった。 また、水江氏の作品におけるデジタル技術へのアプローチも注目に値する。彼は決してアナログ至上主義ではなく、デジタル技術を積極的に取り入れて映像表現における「奇妙さ」や「異質感」を追求している点が印象的である。彼がこれらのツールを使う理由は、観客に強烈な視覚体験を提供するためであり、その背景には、幼少期に培った「映像への驚き」がある。 一方で、水江氏は映画館というアナログ的な体験への憧憬も持ち続けている。彼の長編アニメーション『ETERNITY』では、20分という尺の中で、観客を「ライド型」の視覚体験に引き込むことを目指している。これは、映画館で映画を観るという体験自体を、物語の一部として捉える彼の姿勢を反映している。彼が語るように、映画が終わった瞬間に「自分が映画館にいたことに気づく」という感覚は、映画の持つ没入感と現実感の融合を象徴している。 総じて、水江氏の作品は、ノンナラティブな形式の中で、物語を超えた体験を提供するものである。その背景には、幼少期に体験した映画の記憶と、現代のデジタル技術への適応が深く関わっている。彼の作品は、観客に視覚的な驚きと、異質な感覚を提供し続けるだろう。これこそが、彼のアニメーションの最大の魅力であり、今後もその進化が期待される。 「水江西遊記(仮)」について 改めて語り直すが、水江未来氏は日本のアニメーションにおいて特異な存在感を放つアーティストである。彼の作品は、一般的な物語を追うタイプのアニメーションとは一線を画し、ノンナラティブ(非物語的)かつノンバーバル(非言語的)な表現を追求している。これらの要素を通じて、彼は視覚と音楽の融合による感覚的体験を提供し、観客の内面に深く訴えかける作品を生み出している。 水江氏の代表作の一つである『WONDER』は、ベルリン国際映画祭でのワールドプレミア上映を果たし、アヌシー国際アニメーション映画祭で「CANAL+Creative Aid賞」を受賞した作品である。この作品は、視覚的に変容する色彩と形態、そしてPASCALSによる音楽が融合し、多幸感をもたらす6分間のアニメーションだ。この作品を見たベルリンの女性から「明日からはカラフルな服を着て、自分の人生にWONDERを取り入れてみようと思った」という感想が伝えられたエピソードが語られている。このエピソードは、水江氏がノンナラティブ・ノンバーバルな表現の持つ力を再認識した瞬間であり、その後の制作方針に大きな影響を与えたという。 言葉は時に誤解を生み出す。特に同じ言語を共有していても、世代や経験によってその意味は異なる。水江氏は、言語を使ったコミュニケーションの曖昧さを感じ、それがノンバーバルな表現の価値を一層際立たせると考えているかも知れないと筆者は考察する。例えば『WONDER』が視覚と音楽の体験を通じて観客に自発的な思考や行動を促すことができるように、ノンバーバルな表現は観客に「自らの内側から何かを考えさせる」力を持っている。 こうした水江氏の作品は、視覚的な刺激を提供するだけでなく、観客自身の内的な世界に変化をもたらす力を持つ。ノンナラティブ、ノンバーバルな表現は、解釈の幅を狭めることなく、観客が自由に解釈し、感受性を働かせる余地を提供する。そのため、言葉に頼らない抽象的な表現が、観客の内面的な変容を引き起こす可能性があるのだ。 さらに、水江氏が現在取り組んでいる長編アニメーション『水江西遊記(仮)』は、これまでの彼の短編作品とは異なる挑戦である。西遊記という古典的な物語をSF的に再解釈し、複数の視点やマルチバース的な要素を取り入れた作品になることが予想される。このプロジェクトは、仏教的なモチーフや宗教的な視点を含みながらも、最終的にはそれらに収まらない独自の答えを模索するものになるだろう。彼が描くこの物語は、人間がどのように生きるべきか、世界をどう捉えるべきかといった深遠なテーマに迫るものであり、そのアプローチには抽象アニメーションの手法が大きく関わることになるだろう。 水江氏の作品は、観客に対して一方的にメッセージを伝えるのではなく、むしろ観客が自身の内面と向き合い、自由な解釈を促すことで、深い共感や感動を引き出す。ノンナラティブでノンバーバルなアプローチは、観客の感受性に直接訴えかけ、言葉を超えたコミュニケーションを可能にするのである。 彼の次なる挑戦である『水江西遊記(仮)』が、どのような形で観客に新たな視点や体験を提供するのか、そしてどのように彼の独自の表現が進化していくのか、非常に楽しみである。彼の作品が持つ力は、今後も多くの観客に影響を与え続けるだろう。 アニメが横断し始めて、混沌としているが刺激的である 水江氏の作品は、一見すると難解で抽象的な映像が続くが、その中には深いテーマが隠されている。彼の作品における「生と死」というテーマは、特に興味深い。彼はインタビューで「生と死が複雑に拡大や増長している感覚」を表現していると語っており、その感覚は彼自身の人生経験や、子供時代に触れた科学雑誌からの影響が大きいという。彼は科学的な視点から「無」と「有」を捉え、生きていることそのものが不思議な状態であるという感覚を持っている。この感覚は、彼の作品の中でしばしば視覚的に表現されており、見る者に「生命の儚さ」と「存在の神秘」を強く感じさせる。 前述した長編アニメーション『水江西遊記(仮)』は、その表現の集大成とも言える作品である。この作品には、多くのキャラクターが登場し、それぞれが独自の個性と背景を持っていると予想される。彼のキャラクターデザインは彼が制作したミュージックビデオなどで既に見られるように、どのキャラクターも非常に個性的で魅力的である。彼が『スターウォーズ』や『ネバーエンディング・ストーリー』から影響を受けていると語るように、彼の作品には多くのキャラクターが登場し、それぞれが物語の中で重要な役割を果たすだろう。 また、水江氏は、アニメーション業界全体が「混沌とした時代」に突入していると感じている。商業スタジオとインディペンデント作家の境界が次第に曖昧になり、新しい表現方法や技術が次々と登場する中で、彼はその変化を楽しみながら作品を作り続けている。このような時代背景の中で、水江氏はアニメーションという表現の可能性を広げるべく、積極的に新しい挑戦を続けているのである。 水江未来氏のこれからの作品に期待が寄せられると同時に、彼のアニメーションがどのように「生と死」や「存在の神秘」を表現し続けるのか、その進化を見守りたい。彼の作品は、単なるエンターテイメントを超えた深いメッセージを持っており、そのメッセージがどのように伝えられるのか、今後も非常に興味深い。 (執筆:迫田祐樹)