雨にも負けず!ゲームの街になった川越~ぶらり川越 GAME DIGGレポート【前編】

こんにちは、モブです。SKOOTAGAMESのネゴラブチームで、日々キーボードを叩いたり、たまにコーヒーを淹れたりしている者です。 先日、埼玉県の川越市で第一回目が開催されたオフラインゲームイベント、ぶらり川越 GAME DIGGに参加してきました。 ちなみにこのイベント、ちょっとユニークなんです。特定の会場をドーンと構えるのではなく「オープンタウン型」として、歴史ある川越の街全体を舞台にする、という試みが目立っていました。事前にこの話を聞いた時は、街の中でゲームと出会うってどんな体験になるだろう?と個人的な疑問と興味を抱きつつありました。 ただ、当日はあいにくのお天気…。イベント開催中、一日を通してしっかり雨が降り続くという、オープンタウン型イベントにとっては、少し厳しいコンディションでありました。それでも傘を片手に、雨にも負けず元気に展示されていたブースを巡ってみると、やはり面白いゲームとの出会いはちゃんとありました。 むしろ、こういう天気だったからこそ、かえって強く印象に残ったというか、記憶に残る出会いになれた気がします。そこで今回のレポートでは、この雨の川越 GAME DIGGで、私モブが特に「おっ」と感じ入った4つのインディーゲームを中心に、当日の様子と合わせてお届けします。 湯斬忍者:一杯のうどんに込めた地域愛と、湯切りされた固定観念 雨の川越 GAME DIGGで最初に足を止めたのが、この『湯斬忍者』のブースでした。まずはキャッチコピーをご紹介します。「香川のうどんがお客様に届くまでの、バックヤードの死闘をノンフィクションでゲーム化しました(嘘)」…この一文だけで、なんだか面白いことが起こりそうな予感が湧いてきますよね。 ゲームの内容でいうと、プレイヤーがうどんを作る忍者となり、迫りくる敵(うどん作りの秘密を狙う刺客らしいです)を倒しつつ、カウンターの向こうで待つお客さんに出来立てのうどんを提供する、というシンプルなアクション。操作も直感的で、矢印キーで移動しながらうどんの「湯切り」を行うのが基本。移動しながらシャッシャッと湯切りして敵を倒し、お客さんの前ではZキーでうどんを提供していくわけです。 ただ、このゲームで心に刻むべきは、あくまで「お客さんへのサービス」が最終目的という点。攻撃手段の「湯切り」にも肝心の「うどん」が必要不可欠で、手持ちがなければ戦闘も提供もままなりません。なので、単に敵をバシバシ倒す爽快感だけでなく、うどんというリソースを管理しつつ「お客さんへのサービス」をどう全うするかへのバランス感覚が問われるのです。このユニークな切り口には「なるほど」と感心させられました。 実際にプレイしてみると、シンプルな操作性と軽快なアクションで、誰でもすぐに楽しめる、いわゆるミニゲームらしい魅力がしっかり詰まっています。キャラクターのコミカルな動きや、うどんというテーマ自体が持つネタっぽい面白さも素晴らしい。まさに「小さくて、しっかり面白い」という評価に相応しいミニゲームでした。 実はこのゲーム、Unityroomで2018年から公開されているため、「なぜ今更?」という声もあるかもしれません。ですが、この「誰でも気軽にすぐ遊べる」というとっつきやすさこそが、今回のイベントの文脈で非常に重要。というのも、このゲームがここに出展した背景にその理由があります。 ブースで制作者の方に直接お話を伺いしたところ、この『湯斬忍者』、なんと香川県のゲームクリエイターたちが集うコミュニティから生まれた作品だそうです。単なるゲームジャムの成果物というだけでなく、そこには「香川」という地域性や、そこに根差すクリエイターたちの想いが込められている。うどんがテーマだった理由もそこで納得できました。 実際、このゲームは香川県で開催されている地域密着型ゲームイベント「SANUKI X GAME」にも出展経験があり、今回はその主催側でもある「讃岐GameN」さんが出展されていたということ。本作を入口にして少しでも香川県のことや、地域のクリエイターたちの活動に興味を持ってもらえたら、とのお話もお聞きできました。「これを機に香川に遊びに来てくれたら最高ですね!」…そんな熱い想いを語られた制作者さんに、思わず頷いてしまいました。 この制作者さんの想いを聞けただけでも、「川越まで来て本当によかった」と、心から思えたほどです。 振り返ってみると、最近いくつかのゲームイベントに参加する中で、自分のゲームを見る視点が、どうしてもゲーマー寄りに偏ってしまっていたように感じます。でも、本作とその背景にあるストーリーに触れて、自分の中にあった「インディーゲームとはこうあるべき」みたいな小難しい理屈や固定観念が、出来立てのうどんのようにスッキリと「湯切り」された気分になりました。「こういうアプローチこそが、インディーらしい一面なのかもしれない」と。そんな、忘れかけていた大切な視点を思い出させてくれた作品でした。 そして何より、ゲームの話から香川への愛まで、本当に楽しそうに、そして熱心に語ってくださった制作者さんの姿が、とても印象的でした。『湯斬忍者』の根底にある「お客さんに最高のうどん(=ゲーム体験)を届けたい」というサービス精神の源流を、垣間見たような気もします。「自分もブースに立つときは、これくらいの熱量と誠意を持たないとだな」なんて、帰り道にちょっとした宿題をもらったような、そんな気持ちで次のブースへと足を運びました。 MeloMisterio -play your melody-:静かに響く旋律と誰でもできる即興演奏 『湯斬忍者』のブースで香川への想いを馳せた後、次に向かったのは『MeloMisterio -play your melody-』。こちらはジャンプとダッシュというシンプルな操作だけで、なんと即興演奏(!)ができてしまうという、新感覚の3Dプラットフォームゲームでした。この紹介文だけでも、ゲームのユニークさが十分に伝わるでしょう。 ただ、操作には面白い工夫が凝らされています。ジャンプとダッシュが各々「二つのボタン」に割り当てられており、ボタンを押すたびに特定の音(綺麗なシロフォンのような)が鳴る仕組み。ボタン毎に音の高低差が設定されていて、プレイヤーは移動アクションを行うたびに、自分だけのメロディーを即興で奏でることができるのです。 もちろん、この音の高低差は単なる雰囲気作りだけではありません。ゲームのコアである3Dプラットフォームパズルとも密接に繋がっているのです。目の前の障害物を越えるために、音の高さに応じて位置が変わるブロックを操作することも可能。一度システムを理解すれば直感的に応用できるので、これを活かしたパズル性はなかなか歯ごたえ十分。ゲームコンセプトの斬新さだけでなく、プラットフォームパズルとしての面白さも両立させています、と。まずはそう評価できるゲームでした。 実際にプレイしてみると、正直なところ、難易度は思ったよりもわりと高めだったかなと。この音階ギミックに慣れる必要もありますし、単純に足場から落ちないように気を遣う3Dプラットフォーマー特有のシビアさもあって、最初は少し戸惑ったのも事実です。それでも、自分がなにかのアクションを取るたびに音楽が生まれ、それがゲーム攻略に直結しているというインタラクティブ性が「もう一回だけ!」という挑戦意欲を自然と掻き立てていました。画面もキラキラしたデジタル空間といった趣でしたが、目が痛くなるくらいの過度な派手さではなく、心地よいバランスが保たれていたので好印象。 しかし、本作を語る上で外せないのが、「コエトコ(旧川越織物市場)」という歴史ある建物の中に展示されていたこと。 この趣深い場所でプレイできたのは川越 GAME DIGGならではの贅沢であり、特別な体験でもありました。雨音と建物の静けさの中、プレイヤーのアクションに応じて響き渡る透明な綺麗な音。しかもプレイヤー毎にメロディーが違うので、横で聞いていると何らかの「エモさ」を覚えるほどでした。会場で常に新しい生演奏が流れるのは実にクレバーで、飽きずにずっと聞いていられる点は大きいメリットでしたね。 実に、「主催者は意図的にここに配置したのでは?」と感じるほどかと。 単純な感想ですが、ゲーム自体の面白さもさることながら、私のように楽器経験が皆無(カスタネットができるくらい)の人間が「即興演奏」できるなんて、想像もできない貴重な体験でした。音楽大学出身という制作者さんが、「好きな即興演奏の楽しさを、誰もがゲームで体験できるようにしたかった」と語る純粋な想いにはリスペクトしか感じられませんでした。普段このジャンルはあまり遊ばない印象ですが、リリースされたら自分だけのメロディーを奏でてみたい…そう感じさせた一作でした。 まだ:川越で出会ったゲームと、これからのこと というわけで、雨の中の川越 GAME DIGGレポート、前編として『湯斬忍者』と『MeloMisterio -play your melody-』の二作品をご紹介しました。 正直なところ、一日中降り続いた雨は、「オープンタウン型」というユニークな試みを存分に味わう上では、やはり少し厳しい条件だったかもしれません。しかし、だからこそ、屋根の下や特定の会場で出会った一つ一つのゲーム体験が当時の風景と一緒に、より深く、そして鮮明に記憶に残れたと思います。 『湯斬忍者』では、開発者の方との温かい対話を通じて、うどん一杯に込められた地域コミュニティの熱意や、ゲームが持つ繋がりの可能性に触れることができました。そして『MeloMisterio』では、文化財「コエトコ」という特別な空間と雨音が奇跡的にシンクロし、他では決して味わえないであろう、深く心に響く即興演奏の「エモさ」を体験することができたのです。